PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2011.6.29

2011年6月29日 担当:野田

Trends in activity limitations: the Dutch older population between 1990 and 2007
~ 活動制限の傾向:1990年から2007年までのオランダの高齢者集団 ~
出典: International Journal of Epidemiology (in press), First published online: February 15, 2011
著者: Coen H van Gool, H Susan J Picavet, Dorly JH Deeg, Mirjam MY de Klerk, Wilma J Nusselder, Martin PJ van Boxtel, Albert Wong and Nancy Hoeymans1
<論文の要約>
背景:
近年の寿命の増加は、同時に活動制限の先送りが伴っているのかどうかはっきりしていない。先行研究では、重度の活動制限の有病率は、上昇していると結論付けている国もあれば下降しているとする国もある。オランダでは、異なる研究で異なった結果が報告されてきた。今回の研究の目的は、これらの相違を克服するために、関連研究を統合し、メタアナリシスを行うことで、1990年から2007年のオランダでの、施設に入居していない55から84才の集団における活動制限の有病率の傾向の最も良い推定を見つけることである。

方法:
2つの反復された横断調査および3つの長期追跡調査の5つの研究に基づいたデータを使って(n=54847)、OECDの長期身体障害質問用紙かshort form 36(SF-36)のいずれかの形式の自己申告(2通り)の、「階段上り」、「歩行」、「着替え」、の3つの領域に対する回答(3通り)を、3段階で表し、さらに「重度かそうでないか」と「障害があるかそうでないか」の2種類の2値尺度(2通り)に直し、(2形式×3領域×2尺度の)12の従属変数のそれぞれを、第一段階として、有病率の年次推移をグラフにし、5つの調査間に不均一性がないことを確かめた後、第二段階として、ランダムエフェクトメタアナリシスによって、時間(年)に対する有病率のオッズ比を計算した。

結果:
統合されたデータは、オランダの高齢者の人口構成をよく代表していた。検討された12の活動制限の変数のうち10の時間的傾向は安定だった。OECDの質問用紙に基づく、少なくとも中程度の活動制限の有病率は、階段上り(OR=1.03)と着替え(OR=1.04)に関して研究期間を通じて上昇した。年齢と性別で層化した時間的傾向は一致したパターンを示した。

結論:
1990年から2007年までの期間にオランダの高齢者集団において、活動制限の有病率の減少は全く見られなかった。この時期、ほとんどの活動制限の有病率は一定の状態で、寿命は増加した。これは、活動制限のある人が増えたということを意味し、将来の大きな重荷となる。これを正確に解釈するには、施設の入居者の傾向のデータが本当は必要だが、そのサイズの小ささから効果も小さいと考えられ、老人のための施設での障害の有病率が増加しているというデータもあることから、活動障害は拡大していると結論付けた。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■メタアナリシスは、生データを使っているのか?
→メタアナリシスは通常生のデータではなく要約データを使う。今回、著者らは各研究の生データを借りられているようであるが、それを用いてオッズ比を算出したのではなく、統合結果の標準誤差の大きさから考えても、通常のメタアナリシスを行っているようである。

■質問用紙の聞き方について?
→5つの調査では共通した形式の2種類の質問用紙を使っており、共通した3種類の項目について質問している。このとき、OECDでは、活動できることをYESとするのに対し、SF-36では逆に、障害があることをYESと答えさせている。このことは、結果に影響があるのではないか。同じ内容が、論文の考察のOECD vs SF-36のなかでも述べられている。

■活動制限に対する有病率が維持されているのは、良いことか、悪いことか?
→この論文では、寿命の延長に、活動制限の期間も付随して先延ばしされるかどうかが、スタディクエスチョンである。減少傾向とはならなかった結果は、活動制限の拡大となっている、と結論付けている。しかし、有病率の維持ということであれば、活動制限を持つ人口は増えたとしても、いわゆる健康寿命も延びているはずなので、良い現象だという解釈もできる。少なくとも自然な現象と言えそうだ。

■5つのデータというのは、メタアナリシスにしては、少ないのでは?
→通常は多くの研究を統合して、メタアナリシスがよいとされるが、このメタアナリシスは、対象となる研究を選択する際にオランダでの研究ということの他に、5つの条件、すなわち①活動制限の自己申告のデータがある②少なくとも10年以上の期間③データ収集のタイミングが最低3つ以上④両方の性別についてサンプルが取られている⑤施設に入居していない55-84歳の者、の回答に基づく研究を対照としているため、メタアナリシスに用いる研究のサイズは必然的に小さくなってしまったのではないか。

■入院患者を入れないと、実質的な意味がない?
→施設へ入居をしているかどうかとは関係なく、人口全体が、寿命の延長と活動制限の有病率の問題には関わってくる。この研究はそこが弱い。


前のページに戻る