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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2011.11.9

2011年11月9日 担当:横道

Effectiveness of Influenza Vaccine in the Community-Dwelling Elderly
~ 地域在住の高齢者に対するインフルエンザワクチンの効果 ~
出典: N Engl J Med 2007; 357:1373-81
著者: Kristin L. Nichol, M.D., M.P.H., M.B.A., James D. Nordin, M.D., M.P.H., David B. Nelson, Ph.D., John P. Mullooly, Ph.D., and Hak, Ph.D.
<論文の要約>
背景:
65歳以上の者についてのインフルエンザワクチンの有効性について信頼できる推定がワクチン政策上重要となっている。ところが期間の短い研究は長期的な便益について歪んだ結果を提示し、残差交絡は過去の研究のなかではバイアスを与えているかもしれない。この研究では、年長者へのインフルエンザワクチンの長期的な便益について、潜在的なバイアス・残差交絡を考慮することで、検討を試みた。

方法:
データは18コホートからなる。地域在住者について、HMO(U.S. health maintenance organization)で1990-1991に始まり1999-2000まで取られたもの、1996-1997に始まり1999-2000まで取られたものである。共変量を調整したロジスティック回帰分析により、肺炎またはインフルエンザによる入院の予防効果と、死亡の予防効果を検討した。

結果:
713872人年が観察された。医学的にハイリスクな状態は、ワクチン非接種群よりもワクチン接種群に頻度が多かった。ワクチン接種は肺炎またはインフルエンザによる入院を27%減らすことと関連していた(オッズ比0.73, 95%CI 0.68-0.77)死亡を48%減らすことに関与(オッズ比0.52 95%CI 0.50-0.55)。これらの推定は、年齢やリスクファクターによるサブグループを問わず比較的一様の結果であった。感度分析として、測定されていない、ワクチンの効果を過度に見積もる可能性のある交絡因子を仮想的に主解析のモデルに組み込んだ。それによれば、ワクチン接種は入院と死亡についてrisk reductionを小さくするものの、依然として有意な効果をもっていた。

結論:
10シーズンに渡るデータから、インフルエンザワクチンは地域に住む高齢者について、肺炎またはインフルエンザの入院リスクと死亡リスクの減少に有意な関連をもっていた。優先順位の高いグループに対してワクチンの供給を改善する必要があると考える。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■本研究は、HMOの3つのプログラムから条件に合致する65歳以上の被験者を抜き出している。この3つの地域のプログラムが、そのアメリカの該当州全体をカバーするものなのか、それともそのプログラムは任意で参加するようなものなのか、で結果の外挿性が異なる。
→調べたところ、HMOは課金されるhealth care plan(保険)のようである。これに加入している集団は、収入や人種、職業といった点で限定されるだろう。

■sensitivity analysisとして、この研究では「機能障害」を残差に残る、測定されている共変量では説明しきれていない交絡因子の集約された指標としている。そのprevalenceをワクチン接種群、ワクチン非接種群、について同じ設定のもとにいくつか条件を変えてrisk reductionを計算している。この、prevalenceが接種群と非接種群で同一であるという設定のもとでは、risk reductionはnullには近付くことはあっても、効果が逆転することはないのではないか。実際、引用されているLin et al.の文献には、両群のprevalenceが違う場合のオッズ比の計算が示されている。

■この論文のsensitivity analysis以外の部分は、インフルエンザワクチンの効果があることを、単年度や2シーズンだけでなく、10シーズンについてみた、ということだろう。また、その大きなN数のデータを用いて、性・年齢。リスクファクター毎にサブグループ解析をした、というのがインパクトのひとつである。

■ワクチンの効果をすべて、オッズ比はなくrisk reductionに統一して見せているので、すべての図表がすっきりと見やすい。図表のまとめ方は大事だ。




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