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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2012.5.16

2012年5月16日 担当:野田

Handgrip strength and mortality in the oldest old population: the Leiden 85-plus study :the Leiden 85-plus study
~ 最も高齢な集団における握力と死亡 ~
出典: Canadian Medical Association Journal 2010 March 23: 182(5)
著者: Carolina H.Y. Ling MD, Diana Taekema MD, Anton J.M. de Craen PhD, Jacobijn Gussekloo MD PhD, Rudi G.J. Westendorp MD PhD, Andrea B. Maier MD PhD
<論文の要約>
背景:
筋力が乏しいことが、有病率や死亡率の増加に関連していることは、中高年の様々な集団で示されてきた。しかしながら、これらの研究が、85歳以上の最も高齢な集団について表しているわけではない。本研究の目的は、最も高齢な集団における筋力と死亡率の関連を調べることである。

方法:
研究デザインは、ポピュレーションベースの前向きコホート研究。オランダのライデンに住んでいる85歳の住民全員を対象としたthe Leiden 85-plus studyの参加者のうち、握力の測定値が信頼出来る555人(女性65%)を対象者とした。ベースラインの他に、89歳の時点で参加者の握力が測定された。ベースライン時の、合併症、身体機能の状態、身体運動の水準のデータを集め、交絡因子の調整を行った。

結果:
平均9.5年の追跡期間中に、444人(80%)が死亡した。85歳時点の握力の強さで3分位に分けると、最も握力の高い群に比べて、最も握力が低い群で、死亡の危険性が有意に高かった(HR=1.35 1.00-1.82 p=0.047)。89歳時点の握力の強さで3分位に分けると、最も握力の高い群に比べて、最も握力の低い群と中間の群のいずれにおいても、死亡の危険性が有意に高かった(HR=2.04 1.24-3.35 p=0.005) (HR=1.73 1.11-2.70 p=0.016)。4年間の握力の変化率の3分位による比較では、最も握力が低下した群で、死亡率が有意に高かった。

結論:
全身の筋力を代表する測定値である握力は、最も高齢な集団での死亡の予測因子であり、高齢者の死亡リスクを診断するための簡便な道具として役に立つかもしれない。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■握力を立位で測定できること自体が、健康であることを表しており、ポピュレーションベースの研究ではあるが、その中でも、握力が立位で測定できる程度、健康な人達を対象とした研究として解釈する必要がある。

■オランダ人は日本人に比べて握力がかなり高いので、カットオフ値など、単純に結果を当てはめることはできない。

■男女を別々に3分位に分けたのち、合わせてひとつの群とすることは、性別と握力の関連を考えれば、妥当である。しかしながら、握力が性別によって異なるのならば、できることなら、性別で層別化して解析するほうが良い。

■現場の実感からすると、座りがちな生活により、高齢者は、まず、下肢の廃用性萎縮が先行し、手の筋力は最後まで、程度の差はあれ維持されやすい。そう考えると、握力は身体機能を適切に評価しているとはいえず、指標として使うことの妥当性に疑問が生じる。しかし、すでに握力は全身の筋力と相関することがわかっているので、下肢の筋力の低下も握力によってある程度評価できていると考えられる。また、臨床への応用の観点から、簡便に測定できる握力を用いることは有用である。握力と死亡との関連におけるメカニズムは不明で、下肢の廃用性萎縮などが表している身体活動の低下が関係しているということは仮説にすぎない。握力は、全く別の理由で死亡に関連している可能性があり、その場合、握力によってのみ死亡を予測できることになる。




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