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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2012.10.3

2012年10月3日 担当:浅野

Association Between Acute Care and Critical Illness Hospitalization and Cognitive Function in Older Adults
~ 急性期ケア及び重症入院と高齢者の認知機能の関連 ~
出典: The journal of the American Medical Association 2010;303(8):763
著者: William J. Ehlenbach, MD, MSc; Catherine L. Hough, MD, MSc; Paul K. Crane, MD, MPH; Sebastien J. P. A. Haneuse, PhD; Shannon S. Carson, MD; J. Randall Curtis, MD, MPH; Eric B. Larson, MD, MPH
<論文の要約>
背景:
過去の研究から、重篤な疾病の生存者の多くが長期にわたる認知機能の障害を経験することが示唆されてきた。しかし、過去の研究において認知機能の病前評価が含まれてこなかった点と、認知症の発症リスクと重症の関連を評価していなかった。
本研究の目的は、急性期もしくは重症による入院を経験した高齢者は、入院をしなかった高齢者と比較し、認知機能が低下するかを決定することである。また、それらの曝露(入院・非入院)によって認知症の発症リスクが異なるのかを決定することである。

方法:
1994年から2007年に、シアトルに住み、民間の健康保険組合に加入している、ベースラインに認知症を罹患していない65歳以上の2929名を対象としたコホート研究データを解析した(2000年~2002年において参加者を811名追加している)。そのデータの内、2回以上の訪問調査を行っている参加者を本研究のデータに含んでいる。また、研究参加者の内、一時性の脳損傷にて入院した参加者は、入院時に除外をしている。
Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)を2年おきに測定し、86/100点以下であった場合、認知症の専門機関で標準化された臨床検査を受けた。
追跡訪問調査でのCASIの得点と認知症発症のアウトカムは、年齢・性別・ベースラインの認知スコア・学歴・ベースラインの調査からの時間・ベースラインの心疾患と脳血管疾患の合併症の有無、で調整した。また、認知症の分類(アルツハイマー型、脳血管型、その他)と3つの入院カテゴリをχ2乗検定により解析した。

結果:
平均6.1年(SD:3.2年)追跡した間、1601人の参加者が入院しなかった。1287人は一度以上、非重症にて入院し、41人は一度以上、重症で入院をした。94.3%の参加者に対し、CASIを退院後45日以上で評価した。 重症入院を経験した参加者は病院に入院しなかった参加者群と比較し、調整されたCASIのスコアが平均2.14点低かった。また、重症入院による認知症の発症リスクは非入院と比較し、補正ハザード比にて2.3倍であった。ただし、認知症発症との関連において統計的な有意差はみられなかった。
非重症入院を経験した参加者は病院に入院しなかった参加者群と比較し、調整されたCASIの得点が平均1.01点低かった。非重症入院の認知症発症リスクは非入院と比較し、補正ハザード比にて1.4倍であった。認知症発症との関連は統計的な有意差がみられた。
入院しなかった群は他の2群より、アルツハイマー型認知症の診断を受ける割合が高かった。(入院なし76%・非重病入院:60%・重病入院:40%)

結論:
急性期入院および重症入院を経験した、ベースラインに認知症を発症していない高齢者は、入院をしなかった高齢者に比べ、認知機能が低下する可能性が大きい。非重症入院は認知症の発症と有意に関連があった。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■前向きのコホート研究において、調査途中で参加者を811人追加している事はどういう理由だろう。明記すべきだろう。

■参加者は私立の健康保険組合に加入できる高所得に限られたデータとなっている可能性があり、外的妥当性に限界があると考えられる。

■認知症の分類についての報告はχ2乗検定で分析しているが、これだけでは不十分ではないか。3つのタイプの認知症×3つの入院カテゴリのχ2乗検定による検定結果は、主張したいことがはっきりしない。



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