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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2013.1.30

2013年1月30日 担当:手塚

Falls in nursing home residents receiving pharmacotherapy for anemia
~ 貧血薬物療法を受ける療養型病院入居者の転倒・再転倒について ~
出典: Clinical Interventions in Aging 2012:7 397-407
著者: Gregory ReardonNaushira PandyaRobert A Bailey
<論文の要約>
背景:
現在、長期加療中の貧血薬物療法およびそれぞれの臨床のエンドポイントとの関係について評価されておらず、貧血加療者の死亡原因の1つに、転倒があげられ注目を集めている。また、転倒は療養型病院で生じる重大な出来事であるが、それらが起こる時はカルテから予測する事は困難である。
そこで今回、ビタミンB12、葉酸、鉄、エリスロポエチン製剤であるepetin alfa(EPO)およびdarbepoetin alfa(DARB)治療の内服と、6か月の観察期間にわたる、転倒および再転倒に関連性があるか調査する事を目的とし、貧血治療の内服薬別にみた転倒・再転倒について関連性を分析した。

方法:
アメリカ国内にある40ヶ所の療養型病院入院患者を対象とし、6ヶ月間の転倒・再転倒の発生を見た前向きコホート研究を実施した。対象者のデータは、看護師が無作為標本抽出し、Hb値・血清クレアチニン値・転倒や再転倒の有無・内服薬データ等の個人データを抜粋。対象期間中に転倒・再転倒した者に対し、貧血治療の内服薬別に分析し関連性について調査した。

結果:
対象者632名中、ビタミンB12内服者82名、葉酸内服者56名、鉄剤内服者194名、DARB内服者13名、EPO内服者55名、未治療者348名だった。ロジスティック解析の結果、Hb13以上の患者にくらべ、Hb12~13またはHb11~12の者は転倒・再転倒の危険性が2倍以上に増加する事が分かった。また内服別に見た分析では、ビタミンB12・葉酸・鉄剤内服者と比較し、DARB・EPO内服者の方が転倒・再転倒のオッズ比がそれぞれ、0.46、0.06と低い傾向にあった。同様に、慢性腎臓病疾患患者おいてもDARB・EPO内服者の方が転倒・再転倒のオッズ比が0.64、0.09と低い傾向にあった。

結論:
貧血患者の半分しかビタミンB12・葉酸・鉄剤といった貧血治療を行なっていなかった。療養型病院においては、ビタミンB12、葉酸、鉄剤の使用が転倒や転倒の再発に関連することを支持するエビデンスは殆どみつからなかった。本研究から、DARBとEPO内服者は標本数が少ないにも関わらず、転倒・再転倒のオッズ比が低いことが判明した。さらに、貧血治療の内服が、貧血と関連するアウトカムなのか検討するために、DARB・EPO内服者に焦点を当て追跡調査する必要がある。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■「Nursing home」の意味合いとして、日本では「老人ホーム・特別養護老人ホーム」と訳すのに対し、米国では「小規模療養型病院」として活用されていた。

■Propensity modelとは観察的データのみからランダム化比較試験に近い結果を得る手法である。今回の研究では、同じ背景因子をもつ患者でも医師によって治療方針が異なる事をこのモデルで調整しようとした。

■貧血治療の内服期間やHb値の推移等がMethodsに書かれていないのは、データ抽出に関して看護師が無作為標本抽出しているため、データの質および信頼性・妥当性に欠ける部分があったのではないか。コホート研究の場合細かな条件設定が必要である。



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