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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2013.5.15

2013年5月15日 担当:野田

Socioeconomic inequalities in outcome of pregnancy and neonatal mortality associated with congenital anomalies: population based study
~ 先天性奇形に関連する妊娠予後と新生児死亡における社会経済的な格差 ~
出典: BMJ 2011;343:d4306
著者: Lucy K Smith, Judith L S Budd, David J Field, Elizabeth S Draper
<論文の要約>
目的:
先天奇形に関連する妊娠予後と新生児死亡における社会経済的格差について検討する

方法:
デザイン:登録を用いた地域に基づく後ろ向き研究。
セッティング:EnglandのEast Midlands と South Yorkshire 地域。(EnglandとWalesにおける出生数の約10%にあたる)。
対象者:1998年1月1日から2007年の12月31日の間に妊娠を終えた、the United Kingdom's fetal anomaly screening programmeの参加者で、予後の悪い選ばれた9つの奇形を伴う登録されたすべての症例。
主要アウトカム:・選んだ先天性奇形のリスクにおける社会経済的なばらつき・妊娠予後・出生数と新生児死亡数・index of multiple deprivation 2004により測定された貧困

結果:
選ばれた9つの先天性奇形の1つに1579人の胎児が登録された。貧困によるこれらの奇形の全体のリスクにばらつきがあるという証拠はなかった(最も貧しくない10パーセンタイルに対する最も貧しい10パーセンタイルの率比は1.05(0.89-1.23))。奇形の種類及び母親の年齢により率比は異なった。母親の年齢で調整すると非染色体性の奇形の率比は、1.43(1.17-1.74)染色体性奇形の率比が0.85(0.63-1.15)。9つの奇形のなかで、86%が出生前に診断された。これが貧困に伴い異なるという証拠はなかった。先天性奇形が出生前に診断された後、人工妊娠中絶をした割合は、最も貧しくない地域に対して、最も貧しい地域のほうが低かった。(63%:79%、率比0.80(0.62-0.97))さらに、これらの先天奇形のいずれかと関連している出生率や新生児死亡率において有意な社会経済的格差があった。最も貧しくない地域に比べて、最も貧しい地域では、出生率が61%(1.61, 1.21-2.15)高く、新生児死亡率が98%(1.98,1.20-3.27)高かった。

結論:
先天性奇形に対する出生前スクリーニングは、人工妊娠中絶を通して、新生児死亡率を減らしている。しかしながら、出生前診断後の人工妊娠中絶に関する決定における社会経済的な違いが、先天性奇形を伴って出生した児やそれに続いて新生児死亡することに広く社会経済的不平等があるという結果をもたらしている。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■社会経済的な影響が、染色体性の奇形に対してはなく、非染色体性の奇形に対してあるというのは、妥当である。一方、出生前診断により人工妊娠中絶を行う割合が、貧しい地域で少なく、結果的に先天性奇形の出生率を増加させているというストーリーは、人工妊娠中絶が、経済的な側面だけでなく、文化的な側面の影響を受けることも考えると、人種について調整できていない結果からは言いづらい。

■貧しい地域で人工妊娠中絶が少ないのは、処置を受ける困難さとともに、診断を受ける困難さも影響していると考えられる。診断が遅いほど人工妊娠中絶を選択するリスクが高まり、貧しい地域では、出生前診断がされても出産するという選択をする割合が増えるのではないか。

■郵便番号による貧困の評価がイメージしにくい。どのような方法で地域の貧困の程度を決めているのか。どの程度の細かさで一つの地域を決めているのか。世帯収入と比べて、妥当なのか。逆に、世帯よりも地域の貧困度を評価したほうが、医療機関へのアクセスなど、実際の貧困によるアウトカムへの影響を評価するのにはいいのかもしれない。



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