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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2013.11.20

2013年11月20日 担当:野田

Mental disorders and vulnerability to homicidal death: : Swedish nationwide cohort study
~ 精神疾患と他殺による死亡に対する脆弱性:スウェーデンの国のコホート研究 ~
出典: BMJ 2013;346: f557 doi: 10.1136/bmj.f557 (Published 5 March 2013)
著者: Casey Crump clinical assistant professor, Kristina Sundquist professor, Marilyn A Winkleby professor, Jan Sundquist professor and director
<論文の要約>
背景:
今までに、精神疾患の患者の自殺や事故による死亡に関するリスク因子についてはよく研究されてきた。また、精神疾患の患者による殺人や傷害についても、長年広く研究されてきた。しかしながら、精神疾患の患者が殺人の被害者となるリスクに関して検証した研究は数少ない。本研究では、スウェーデンのすべての成人人口の外来患者と入院患者のデータを使用し、国政調査から得られた社会人口学的な要因を調整することで、先行研究での限界を克服し、高い信頼性で、精神疾患を持つ対象の他殺により犠牲となるリスクを決定する。

目的:
妊娠早期の母体BMIと早産になるリスクの関係性について明らかにすること。

方法:
2001年1月1日にスウェーデンに居住する17歳以上のすべての人を対象とした。アウトカムは2001年1月1日から2008年12月31日までのICD-10において、X-85からY-09に該当する死亡とした。一方、不慮なのか故意なのか不明であるY-10からY-34は除いた。スウェーデンの外来患者登録および病院患者登録を用いて、2001年1月1日から2008年12月31日までの精神疾患の診断を特定した。コックス比例ハザード回帰を用いて、精神疾患または社会人口学的特性と他殺による死亡との間の関係に対するハザード比及び95%信頼区間を、次の3つのモデルにて推定した。①性別と年齢だけを調整、②さらに社会人口学的特性(婚姻状況、出生地、教育、就業状況)を①に加え調整、③薬物中毒者(n=160762;2.2%)を②から除いたモデルである。

結果:
追跡期間中に5440万人年の観察が行われ615の他殺による死亡が発生した。精神疾患を持つ人達の10万人年あたりの他殺による死亡率は2.8で、一般集団では1.1だった。社会人口学的な交絡因子で調整後、精神疾患を持つ対象全体では、一般集団と比べて、4.9倍(95%信頼区間:4.0-6.0)と他殺による死亡リスクとなった。他殺による死亡リスクは、薬物使用者が最も大きく9倍、人格障害では3.2倍、うつ病では2.6倍、不安障害では2.2倍、統合失調症では1.8倍であった。社会人口学的なリスク因子は、男性、未婚、低SESであった。

結論:
大規模なコホートにおいて、精神疾患の患者の他殺による死亡リスクが大きく増加していた。精神疾患の患者に対して暴力による死亡を減らすような介入が、迫害や他殺による死亡への取り組みにつながるだろう。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■全成人を7年間追跡して、615しか発生しないようなアウトカムに対して予防措置をとることが、どの程度公衆衛生上の重要性があるのか疑問である。殺人が一番シビアな結果であって、実際には、殺人に至らなかった暴力が多く発生しているとの記載があるが、それならイントロダクションのところで述べたほうが、インパクトが伝わって読者も興味を持てる。

■今回の結果を、どうやって活用していくのかが難しい。精神疾患であることが、直接、他殺による被害のリスクとなっているとは考えづらい。背景のリスク要因にアプローチしていくのも、具体的にどう介入すればよいのかわかりにくい。

■精神疾患を持っている人達のコミュニティの中で殺人事件が起こっているのかなど、他殺の被害にあった時の加害者がどういった人たちなのかわかれば、もう少しメカニズムに言及できる。今回の研究では、そこまではわからなかったが、警察の持っている資料などと結合できれば、その辺りの検討もできたかもしれない。

■日本では、論文の中で少ないとされているスウェーデンよりも、殺人の発生率は低い。 ■日本も、このようなデータを出すためには、ロビー活動など政治家に対する働きかけが必要である。



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