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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2014.2.5

2014年2月5日 担当:高橋敦宣

Smoking and Diabetes:Does the increased Risk Ever Go Away?
~ 喫煙と糖尿病:リスクは上がり続けるのか? ~
出典: Am J Epidemiol. 2013 Sep 15;178(6):937-45
著者: Luo J, Rossouw J, Tong E, Giovino GA, Lee CC, Chen C, Ockene JK, Qi L, Margolis KL.
<論文の要約>
背景:
ほとんどの文献は喫煙と2型糖尿病の増加に関連があることを示している。それゆえに禁煙は現在喫煙者の糖尿病のリスクを減少させるはずである。しかし、禁煙に引き続いて多くの体重増加がおこり、そのことは結果として糖尿病のリスクを増大させうる。そのため、禁煙と糖尿病リスクを検討する場合には、BMIについて考慮する必要がある。我々はWomen's Health Initiative(WHI)-喫煙、喫煙の累積暴露、体重変化やその他の潜在的交絡因子についての詳細な情報がある大規模前向き研究-のデータを用いて、禁煙と2型糖尿病の発症の関連を評価した。

方法:
1993年9月1日から1998年12月31日の間にWomen's Health Initiativeに参加した50-79歳の閉経女性135,906人について、平均11年間追跡し、Cox比例ハザードモデルを用いて禁煙と糖尿病リスクとの関連を検討した。糖尿病発症の定義は、半年ごと、あるいは1年ごとの定期的な質問紙における"新規に薬やインスリン注射といった糖尿病治療が処方された"もしくは"糖尿病のための食事療法や運動療法をしている"という問いへの肯定的な回答とした。糖尿病の発症時点は、質問紙により糖尿病発症が確認された年と前回の質問紙送付時の中間とした。

結果:
非喫煙者と比較して、糖尿病のリスクは現在喫煙者で有意に増大(ハザード比:1.28、95%信頼区間:1.20~1.63)していたが、追跡開始当初から3年の間に禁煙した女性でもリスクは有意に高かった(ハザード比:1.43、95%信頼区間:1.20~1.63)。過去の喫煙者の間では、糖尿病のリスクは禁煙期間が伸びるほどに有意に減少し、禁煙してから10年で非喫煙者と同じになった。累積喫煙暴露の小さい(<20Pack Year)新規喫煙者での糖尿病リスクは禁煙後大きくならなかった。結論として、過去の喫煙者の糖尿病リスクは禁煙してから10年で未喫煙者と同じになり、喫煙状況が軽度なものほど早くもとに戻りやすい。

考察:
禁煙してからの期間が短い場合には、糖尿病のリスクが増大する。一方、禁煙して20年以上の過去喫煙者では、糖尿病リスクが減少した。本研究の強みは前向き研究であることであり、巨大なサンプルサイズで幅広い地域の分布をもつコホートであることである。そして体重の変化や潜在的交絡因子の情報が詳細にあったことである。一方、いくつかの限界がある。第一に質問紙内での個人の糖尿病情報を用いたことで、このことは糖尿病の発症を正確に分類できなかったかもしれない。第二に2型糖尿病と肥満には強い関連があるので、BMIと腹囲の注意深い調整を行ったが、それでも調整しきれなかった可能性がある。第三にニコチンは直接的に膵臓に働き、インシュリン感受性に影響するが、ニコチン置換療法など、禁煙治療に関する情報がなかったこと。第四に他の疾患の診断を受けたことにより禁煙した人は、その診断された疾患のせいで、本来見つけられないはずだった糖尿病が見つかった可能性がある。さらに、この集団における喫煙率は一般より低かったので、喫煙率の高い集団では結果が異なる可能性がある。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■938ページ右段に書かれている喫煙期間の計算式の記述が誤っているのではないか。ベースラインの年齢から禁煙を開始した年齢を引いているので、著者は禁煙の期間を計算していることになる。次段以降の文脈を踏まえると、禁煙の期間と書こうとしていたのではないか。

■Table1で4つのカテゴリのうち、2カテゴリ間における検定のP値だけが記述してあり、多重比較の問題を考えると、検定方法の説明が不足していると思われた。

■非メラノーマ性の皮膚がんは予後が比較的良好であるため、対象集団からの除外基準に含まれなかったと考えられる。

■高コレステロール血症について、今回は服薬の有無で判断しており、正確な検討方法ではないのではないかという指摘があったが、過小評価になるため許容されると考えられた。



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