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社会医学講座 | 山梨大学医学部

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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2014.5.21

2014年5月21日 担当:秋山有

Weight change and depression among US young women during the transition to adulthood.
~ 成人にいたる期間のアメリカの若い女性の体重変化とうつ病について ~
出典: American Journal of Epidemiology(2013;178(1):22-30)
著者: Michelle L. Frisco, Jason N. Houle, and Adam M. Lippert
<論文の要約>
背景:
アメリカにおける思春期の健康に関する全国調査の、第2次調査(1996年)と第3次調査(2000~2001年)からのデータを用いて、我々は、成人にいたる期間の若い女性の体重とうつ病との関係を調査した。

方法:
回答者(n=5,243)は、第2次調査において13~18歳だった人と第3次調査において19~25歳だった人である。若い女性たちを、第2次から第3次の調査期間において「うつ病になったことはない」、「常にうつ病である」、「うつ病を発症した経験がある」、または、「うつ病から回復した経験がある」と分類するためにCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)を用いた。また、体重の分類は、思春期のBMIパーセンタイルと成人のBMIスコアをマッチングさせ、「過体重ではない」、「常に過体重である」、「常に肥満である」、「痩せたまたは太った」、の4群に分類した。さらに、太った群は、「正常体重から過体重」、「正常体重から肥満」、「過体重から肥満」、の3群に分類した。

結果:
調整後の多項ロジスティック回帰モデルの結果は、有意に体重が増加した経験がある回答者は、うつ病発症の恐れがあることを示唆した。思春期に標準体重(調整済みオッズ比=2.10、95%信頼区間:1.14,3.84)か過体重(調整済みオッズ比=1.86、95%信頼区間:1.15,2.99)で青年期までに肥満となった女性は、思春期と青年期の間、常に太っていた若い女性(調整済みオッズ比=1.97、95%信頼区間:1.19,3.26)と同様に、太ったことがない若い女性と比べ、うつ病発症のオッズ比が約2倍であった。

結論:
我々は、体重増加と肥満が、成人期へ移り変わる期間におけるうつ病発症のリスクファクターであると結論づけた。若い女性たちが、成人になるにあたり、健全な体重管理の優先順位を上げる(重要な課題と位置付ける)政策は、彼女たちのメンタルヘルスを改善する手助けとなるかもしれない。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■表題では「体重変化」とあるが、本文の目的では「体重減少」には触れられておらず、「体重増加」のみを記載している。この分野では、うつとの関係は体重増加が一般的には検討されており、体重変化=体重増加と考えられているのだろう。

■この研究デザインは縦断研究である。縦断研究では、始めに対象者が観察対象の疾病にすでに罹患している場合は観察対象から除外した方がよいとされている。除外しておかないと、曝露(本研究の場合は体重変化)が疾病(うつ)の原因ではなく、疾病(うつ)に罹患したことによって曝露(体重変化)が生じた可能性を否定できないからである。このことからモデルを、
  (1)うつではない ⇒ うつになった or うつにならなかった
  (2)うつである ⇒ 回復した or 回復しなかった
という2つにした方がより目的に沿った結果が検討できるのではないだろうか。
言い換えると、ずっとうつではなかった人と、ずっとうつだった人、あるいはうつだったが回復した人とを、どのような意味で比較しているのだろうか?

■因果の逆転の検証について、著者らは「うつであった人と、うつではなかった人の、第2次調査と第3次調査のBMIの変化を比較したが、うつによりBMIの変化は予測できなかった」と言っているが、これだけでは因果の逆転はないとは言い切れないのではないか。2時点の評価では、その間の変化については不明であり、うつではなかった人が、期間内に発症し、その後、治療によって太った事例なども考えられるが、このような事例の影響を検討することはできない。しかしながら、BMIの変化によりうつが発症するという今回の検討内容の一部については、因果の逆転がないということがある程度示されていると思われる。

■体重の分類方法によって結果が過小評価になっている可能性がある。人種によってそもそもの体格は異なるが、思春期の体格の評価には国際的に統一された指標を用いている。本研究の対象者は、青年期にかけて太ったと判定された人の割合が多いことから、思春期の体格の評価がやや過小評価であったか、あるいは、本当にこの対象者が太ったか、どちらかの可能性が考えられる。しかし、太った割合が、やせた割合に比べ著しく大きいことから、思春期では本当は太っていたがその時点では正常の群に分類され、成人の基準であるBMIで評価する際にはやはり肥満であると評価され、本来なら継続して肥満であったにもかかわらず、結果的に思春期から成人期にかけて太ったと評価された可能性が考えられる。その場合、本来は2時点とも同じ群であるはずの人が、太った群に入ったことになり、同じ群であった人との比較においては、太ったことの影響が過小に評価されると考えられた。





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