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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2014.10.1

2014年10月1日 担当:伊藤・広田

Long-Term Cognitive Impairment after Critical Illness
~ 重症疾患後の長期認知機能障害 ~
出典: The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE 2013;369:1306-16
著者: P.P. Pandharipande, T.D. Girard, J.C. Jackson, A. Morandi, J.L. Thompson,B.T. Pun, N.E. Brummel, C.G. Hughes, E.E. Vasilevskis, A.K. Shintani,K.G. Moons, S.K. Geevarghese, A. Canonico, R.O. Hopkins, G.R. Bernard,R.S. Dittus, and E.W. Ely, for the BRAIN-ICU Study Investigators
<論文の要約>
背景:
重症疾患の生存者は、日常生活に支障をきたす遷延性の認知機能障害を有することが多く、その特性はほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、せん妄の持続期間、鎮静薬、また鎮痛薬の投与と転帰との関連を検討した。

方法:
内科系または外科系の集中治療室(ICU)で呼吸不全またはショック状態にあった成人患者を登録し、入院中にせん妄の評価を行い、退院後3ヵ月と12ヵ月の時点で全般的認知機能と実行機能を評価した。評価には、神経心理検査 RBANSとトレイルメイキングテスト パートBを用いた。せん妄の持続期間と転帰との関連、および鎮静薬または鎮痛薬の投与と転帰との関連は、可能性のある交絡因子で調整した線形回帰モデルを用いて評価した。

結果:
登録した821例中、ベースラインで認知機能障害が認められたのは6%であり、74%が入院中にせん妄を発症した。3ヵ月の時点における全般的認知機能のスコアは、患者の40%で母平均より1.5SD低く(中等度の外傷性脳損傷患者のスコアと同程度)、26%で2SD低かった(軽度のアルツハイマー病患者のスコアと同程度)。認知機能障害は高齢患者と若年患者の両方で認められ、12ヵ月の時点での評価においても持続し、全患者の34%が中等度の外傷性脳損傷患者と同程度、24%が軽度のアルツハイマー病患者と同程度のスコアであった。せん妄の持続期間が長いほど、3ヵ月および12ヵ月の時点での全般的認知機能が不良であること(それぞれ P=0.001、P=0.04)、および実行機能が不良であること(それぞれ P=0.004、P=0.007)に独立して関連していた。一方、鎮静薬または鎮痛薬の投与は、3ヵ月の時点においても12ヵ月の時点においても、認知機能障害とは一貫して関連していなかった。

結論:
内科系あるいは外科系のICU入室患者は、長期認知機能障害のリスクが高い。入院中のせん妄期間が長いほど、3ヵ月および12ヵ月の時点における全般的認知機能と実行機能のスコアが不良であることに関連していた。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■Rを解析に使用した文献はJC初である。結果の部分ではAppendixを見なければ、どの測定集団を示しているか不明である。例えば図1はRBANSの完全データを示し、表2は821名の院内評価の推定値の比較をしている。通常、推定値での解析は行わないが、図2にて結果を補っている。

■偏りが生じないよう重症や死亡が予測される集団や評価が行えない集団等を除外しているもの、それでも死亡による脱落が多い(311/821名・37.9%)。また、評価不完全な集団もあり欠損データも多い。それらに対しては数学モデルにて解析を試みている。その点の限界についてはdiscussionにて述べられている。しかし死亡との関連については述べられてはいない事は問題かもしれない。他方、生存が予測される集団において鎮痛・鎮静薬の量、年齢、ベースラインでの合併症の有無等に関係なく、せん妄の持続が1年後の認知機能低下に関係しているとも解釈ができる。脳神経系の研究が望ましいが、評価により多くのコストがかかってしまう事が予測される。

■discussionの書き方として、段落毎に ①全体の概略 ②既存の研究との一致 ③生物学上の背景 ④本研究の利点 ⑤本研究の制限と欠点 ⑥結論、の順にまとめるのが作法である。文献の読込、記述の際に覚えておくと良い。Vulnerableという単語は「脆弱」と訳し、生体に使う単語である。似たものにfragileという単語もあるがより物質的である。これらを理解する事で疾患に罹りやすい集団という概念を理解し易くなる。





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