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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2015.6.10

2015年6月3日、10日 担当:野田、元木

Effect of providing free glasses on children's educational outcome in China : cluster randomized controlled trial
~ 中国での子どもたちの学業成績に対する眼鏡の無料支給の効果:クラスター無作為化比較試験 ~
出典: BMJ 2014;349:g5740 doi: 10.1136/bmj.g5740 (Published 23 September 2014)
著者: Xiaochen Ma graduate student, Zhongqiang Zhou graduate student, Hongmei Yi professor, Xiaopeng Pang professor, Yaojiang Shi professor, Qianyun Chen research assistant, Mirjam E Meltzer biostatistician, Saskia le Cessie professor , Mingguang He professor, Scott Rozelle professor, Yizhi Liu professor, Nathan Congdon professor
<論文の要約>
目的:
中国の農村部において、近視の子ども達に無料で眼鏡を支給したことの学校の成績への効果を評価すること。

デザイン:
クラスター無作為化、盲検化(調査者)、対照試験

セッティング:
2012年から2013年の間に、中国西部の二つの隣あった地域の252の小学校が選ばれた。

対象者:
19,934人の4-5年生(平均年齢10.5歳)のうち、眼鏡をかけずに視力が6/12以下で、眼鏡をかけて6/12より高い視力に矯正できる3,177人を対象とした。3,052人(96.0%)が研究を完了した。

介入:
年度の初めに、子ども達を眼鏡の処方箋のみ(対照群)、地元の病院で眼鏡と交換できる無料引換券群、無料の眼鏡を支給する無料支給群の3つの介入のうちの1つに、学校単位で無作為に84校ずつ割り付けた。

メインアウトカム:
研究終了時点の眼鏡の使用状況、および、ベースラインの点数で調整し標準偏差で表した学期末の特別に作られた数学テストの点数。

結果:
対象となった3,177人のうち、1,036人(32.6%)が対照群、988人(31.1%)が引換券群、1,153人(36.3%)が無料で眼鏡を支給した群に無作為に割り付けられた。対象者は全員、眼鏡による恩恵を受ける事が出来たが、ベースライン時はで15%しか眼鏡をかけていなかった。
介入群で、追跡完了時に眼鏡をかけていたのは41%(観察)と68%(自己申告)、対照群で、26%(観察)と37%(自己申告)であった。介入群と対照群を比較した際に、テストの点数への効果は、0.11SD(95%信頼区間0.01-0.21)であった。調整された無料で眼鏡を支給することの効果(0.10SD、95%信頼区間 0.002-0.19)は、両親の教育(0.03SD、95%信頼区間 -0.04-0.09)や家庭の豊かさ(0.01SD、95%信頼区間 -0.06-0.08)よりも大きかった。この群間の差は有意であったが、あらかじめ検出する差として決めていた0.20よりは小さかった。

結論:
中国の近視の子ども達に無料で眼鏡を支給することは、コンプライアンスが低かったにもかかわらず、観察された群間の差があらかじめ検出すると決めていた差よりも小さかったが、子どもたちの数学のテストの正先を統計学的に有意に改善した。近視は一般的であるが、今回の集団においてほとんど矯正されていなかった。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■視力低下は両親からの遺伝の影響が強いと考えられる。そのため交絡因子になり得るので、両親の視力に関する情報を収集し、影響を調整する必要があったと考えられる。

■倫理的配慮に関しては、試験は子ども達にとって心理的負担があり、研究参加の際に、どのような倫理的配慮の元、手続きをとったかが不明である。

■本研究は、眼鏡の使用を曝露とした無作為化比較試験であるが、コントロールの他に2群の曝露群を割り付けしており、そのように割り付けを行った理由がdiscussionに至るまで説明されていない。社会還元をする際の方法を検討するために行ったデザインをMethodsの中で説明した方がよかったのではないか。

■アウトカムとなる数学のテストは、クラス全員が受けたのか、それとも、研究対象となった子どもだけが受けたのか論文中に明記されていない。もしクラス全員が受けたのであれば、クラスごとの教育の質の影響を考慮するために、全員の学期末の数学の点差で重み付けをする方法も考えられる。

■本研究では、多重補完法で20個のデータセットを作成していたが、セット数の根拠が不明であり、客観的にどの程度のデータ数が適切であるかを検討する必要がある。多重補完法でのデータセットの作成数は多いほど補完データの精度を高めることができると考えられるが、データセット作成には膨大な計算量が必要であり、時間とコストがかかり、また、一定数以上の作成は精度の向上をそれほど期待できないため、どの程度のデータセットを作成すべきか、事前に検討する必要があると思われる。





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