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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2015.7.1、8

2015年7月1日、8日    担当:秋山、飯塚

Parent-mediated intervention versus no intervention for infants at high risk of autism: a parallel, single-blind, randomized trial.
~ 自閉症高リスクの乳幼児への「両親を介した介入」対「非介入」:並行一重盲検ランダム化試験 ~
出典: Lancet Psychiatry(2015;2:133-40)
著者: Jonathan Green, Tony Charman, Andrew Pickles, Ming W Wan, Mayada Elsabbagh, Vicky Slonims, Carol Taylor, Janet McNally, Rhonda Booth, Teodora Gliga, Emily J H Jones, Clare Harrop, Rachael Bedford, Mark H Johnson, and the BASIS team
<論文の要約>
背景:
生後1年で同定される後の自閉症のリスクマーカーは、発達初期における適切な介入の目安となる。我々は、自閉症のハイリスクにある乳幼児への両親を介した介入のこれらのマーカーに対する効果を評価することを目的とした。

方法:
我々は、積極的な子育てを促進するために改修したビデオ(iBASIS-VIPP)による介入と、非介入との違いを検討するために、自閉症の家族性リスクが高い7~10か月の乳幼児がいる家族に対して、2地域、2群・評価者盲検化ランダム化比較試験を実施した。家族は、研究センターで置換ブロック法を用いて、介入群と非介入群にランダムに割り付けられた。家族やセラピストでない評価者はグループへの割付をマスキングされた。主要アウトカムは、乳幼児の両親への注意力である。回帰分析はintention to treatを基本とした。この試験はISCRTN Registry(ISRCTN87373263)に登録された。

結果:
我々は、2011年4月11日から2012年12月4日の間に54家族をランダムに割り付けた(28家族が介入群、26家族が非介入群)。信頼区間がしばしば0を含んでいるが、点推定値は、介入が乳幼児の両親への注意力という主要アウトカムを上昇させたことを示唆した(effect size 0.29, 95%CI -0.26-0.86, よってわずかな負の介入効果から強い正の介入効果までの範囲を含む可能性がある)。副次アウトカムは、介入が自閉症のリスク行動を低下させ(0.50, CI-0.15-1.08)、両親の非指示的態度(共同注視)が上昇し(0.81, 0.28-1.52)、注意の解放が改善され(0.48,-0.01-1.02)、両親の影響によって乳幼児の順応する機能が改善した(χ2 15.39, p=0.0005)。言語と母音変化の反応度ではゼロか負の効果の可能性がある(P1:ES-0.62, CI -2.42 - 0.31;P2:-0.29, -1.55-0.71)。

解釈:
本研究では、母音変化の反応を除き、後の自閉症のリスクを低下させる中程度の介入効果と一致している、行動と脳機能のリスクマーカーと発達の結果について、幅広い正の推定値を示した。しかしながら、推定値は0かわずかな負の効果の可能性を含む広い信頼区間である。この結果は、発達と予防に関する科学を先へ進めていくが、精度を改善するためにより大きなスケールでの再現が必要である。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
■リクルート方法が詳しく記載されていない。Appendixに多少記載されているが、論文本体にはどこの地域または病院、施設等で、どのような方法でリクルートしたのかといった記載がされていない。そのため読者にとっては、セレクションバイアスに対する評価が困難で、かつ得られた結果の一般化の可能性が低いのではないかと疑問をもたれてしまう。

■さらに上記に関連して、セレクションバイアスが存在する可能性が考えられる。今回は、「自閉症をもつ年上のきょうだいがいる」等の家族情報があり、BASISに参加している家族が対象となっている。そのため、研究への参加意欲が高く、また経済状況がある程度、安定している集団である可能性があり、偏りのある集団かもしれない。全体がこのような集団だったために、結果に差がみられなかった可能性が考えられる。より一般的な集団で行った場合には差がみられる可能性もあると考えられる。

■一方で、どのようなきょうだいなのか、人数や年齢による違いなどは考慮されているのかといった点についての記載がなく、適格基準についてもやや曖昧な記載だと思われた。

■介入についての説明が不十分と考えられる。ベースラインからエンドポイントまでが5か月との記載はあるが、その間、5ヶ月間継続して介入が行われていたのか、それとも介入後に観察期間があったのか、そしてどのくらいの間隔で介入を行ったのか、等が本論文自体に明記されていない。このことは本文およびAbstractに記載した方がよいと考えられる。

■方法から結果のつながりが不明瞭であり、ITTの評価方法、図表の結果の出し方の記載がない。また図表と文章が対応していないため、読み解くのが難解である。何をアウトカムとし、何をどのように比較したのか明記すべきと考える。

■RCTは、研究デザイン、介入、測定、アウトカム、それぞれの変数の処理の方法を簡素にかつ的確に(論文の文字制限などの性質上)記載すべきである。



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