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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2016.2.3,10

2016年2月3日,10日    担当:野田、塚原

A longitudinal Analysis of Changes in Job Control and Mental Health
~ 仕事のコントロールにおける変化と精神的な健康の縦断的解析 ~
出典: Am J Epidemiol. 2015;182(4):328-334(Published 11 February 2015)
著者: Rebecca J. Bentley, Anne Kavanagh, Lauren Krnjacki, and Anthony D. LaMontagne
<論文の要約>
【背景】
仕事のコントロールが悪化することは、精神的な健康に悪影響があるとの予想が以前から示されてきた。しかしながら、それが政策的に重要であるにもかかわらず、仕事のコントロールの改善が精神的な健康に与える効果は、あまりよく分かっていない。そこで、仕事のコントロールの改善が個人内での精神的な健康に与える効果を検討した。

【方法】
固定効果を用いた縦断的回帰モデルを用いて、オーストラリアの大規模なパネル調査であるthe HILDA surveyの2001年から2010年の10回分の調査データを解析し、自己申告による仕事のコントロールの変化とSF-36で測定されたMCS(The Mental Component Summary(平均50点、標準偏差10点))の変化の個人内での関係について調査した。

【結果】
HILDAコホートに21280人が登録された。そのうち、13545人が適格条件に当てはまり、2001年から2010年に測定された延べ61106回分のデータを解析した。個人が経験した仕事のコントロールの5分位が上昇するごとに、その人の精神的健康が段階的に増加する関係性が示された。仕事のコントロールを5分位で分けたときの最低の群と比べて、最高の群では、精神的な健康の改善が1.55点(95%信頼区間: 1.25-1.84)と最大であった。仕事のコントロールの下位尺度についてそれぞれ別の解析をしたところ、決定権限と技能自由度で、主たる解析と同じ結果が得られた。両方とも精神的な健康に関して、同じ方向で有意に関連しており、決定権限でより強い関連があった。

【結論】
個人レベルで、仕事のコントロールが上昇することは、精神的な健康の向上を引き起こし、仕事のコントロールを改善することを対象とした政策や実践的な介入を支持する。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■今回の研究で用いたモデルでは、縦断的な繰り返しデータの個人内での変動を見る上で優れてはいるが、研究仮説として設定されている仕事のコントロールが改善することが、精神的な健康を改善するということを言うためには、仕事のコントロールが改善した群も悪化した群も同様に扱っているため適切ではない。改善した群と、そうでない群を区別した解析もした方が良いのではないか。
    ■仕事のコントロールの改善が精神的な健康の改善を導くと結論付けているが、そのメカニズムについての言及が全くない。
    ■この研究では、社会全体として精神的な健康を改善することに意味があることを言っているが、職種ごとに仕事のコントロールの精神的な健康に与える影響が異なると考えられるため、実践的な介入や、政策に応用することを考えると、職種ごとに分けた検討も重要であると考えられる。
    ■仕事のコントロールを改善することが、精神的な健康に最大で1.5点の改善があると結論付けている。今回の参加者は年齢や性別などでも1.5点程度差があり、実際の社会において、それほど大きな意味はない可能性がある。
    ■アウトカムにSF-36のMCSを使っているが、その計算をするうえで比較的重みづけの大きなREには、「仕事やふだんの活動が思ったほどできなかった」のような仕事に関する質問が含まれており、それによって、曝露との関連がゆがめられている可能性がある。


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