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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2016.5.11

2016年5月11日    担当:岡安

Effects of Intensive Glucose Lowering in Type 2 Diabetes
~ 2型糖尿病における強化療法の効果 ~
出典: N Engl J Med 2008;358:2545-59.
著者: The Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group
<論文の要約>
【背景】
疫学研究で2型糖尿病患者における糖化ヘモグロビン(HbA1c)値と心血管疾患の発症との間に関連が認められている。我々は、心血管疾患を既に発症したことのある、もしくは他の心血管疾患リスクを併せ持つ2型糖尿病患者において正常域のHbA1c値を目指す強化療法が心血管疾患の発症を抑制するかどうか、検証を行った。

【方法】
この無作為研究では、HbA1c値8.1%(中央値)を示す10,251人の患者(平均年齢、62.2歳)を強化療法(目標HbA1c値6.0%以下)もしくは通常療法(目標値7.0から7.9%)群に振り分けた。これらの患者の38%は女性、35%は以前に心血管疾患の発症歴を持つ者であった。主要アウトカムは非致死性の心筋梗塞、非致死性の脳卒中、もしくは心血管疾患による死亡である。強化療法群においてより高い死亡率を認めたため、平均3.5年間のフォローアップ期間をもって中止した。

【結果】
1年目で強化療法群と通常療法群でそれぞれ中央値6.4%と7.5%という安定したHbA1c値を示した。フォローアップ期間中、主要アウトカムは強化療法群の352人に起こり、通常療法群では371人で起きた(ハザード比0.90;95%信頼区間[CI]、0.78-1.04;P=0.16)。同時に、強化療法群の257人が死亡し、通常療法群では203人が死亡した(ハザード比、1.22;95%CI、1.01-1.46;P=0.04)。低血糖症や10kg以上の体重増加は強化療法群で多く認められた(P<0.001)。

【結論】
通常療法と比較して、正常域HbA1c値を目指した3.5年間の強化療法では死亡率が増加し、重大な心血管疾患の発症に有意な減少は認められなかった。これらの結果はこれまで認識されていなかったハイリスク2型糖尿病患者における強化療法の有害性について同定することとなった。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■被験者の募集方法が"ボランティア"であるため、一般集団を適切に反映できているかどうか疑問が残るところである。なぜならば、両群で比較的早期に血糖値の改善が認められたことや強化療法群において厳格な介入による介入が実現できたことにも被験者の参加意欲の高さが反映されている。一方で、そうした研究へのアドヒアランスの高さのために介入の有効性を認めたとするならば、efficiencyを適切に評価できているのか、わからない。
    ■除外基準BMI≧45の理由がプロトコール論文にも明確に示されていない。BMI≧45の者を対象に含めると特異的にアウトカムを発症する割合が高いかもしれない。また、BMI≧45という状況を生み出す生活習慣などから、厳格な血糖管理に従わない可能性が高く、結果に影響を及ぼす可能性が高いことが考えられる。
    ■強化療法群で意に反して副次アウトカムである"死亡"が多く認められた理由について「様々な要因によることが考えられる」と記述されている。中央値8.1%と血糖値が高く、かつ、心血管疾患に関するリスクを持つ集団に対して目標値を6%以下と厳しく設定し、短期間(4ヶ月)で血糖値を急激に低下させているため、介入により相当な肉体的ストレスがかかっていたことが考えられる。低血糖イベントの数も関係しているだろう。
    ■本研究は中高年のハイリスク患者に焦点を当てた研究であるが、心血管疾患の既往のない患者、およびベースライン時のHbA1c値が8.1%以下であった患者では、主要アウトカムにおいて強化療法の効果が期待できる可能性を示した結果(図3.A)が認められたため、対象を一般的な糖尿病患者に絞った強化療法の効果についても知りたい。


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