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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2016.6.1

2016年6月1日    担当:大出

Benzodiazepine use and risk of incident dementia or cognitive decline: prospective population based study
~ ベンゾジアゼピンの使用と認知症または認知機能低下のリスクについて:前向きの地域住民をベースにした研究 ~
出典: British Medical Journal (bmj), 2016; 352, i90.
著者: Gray SL, Dublin S, Yu O, Walker R, Anderson M, Hubbard RA, Crane PK, Larson EB.
<論文の要約>
【目的】
ベンゾジアゼピンの累積使用量が多いことと、認知症または認知面の低下が関連するかについて検討すること

【研究デザイン】
前向きの地域住民をベースにした研究(時間軸ありのコホート研究)

【セッティング】
Group Healthという名前のワシントン州シアトルにある統合型の保健提供システム

【対象者】
ベースライン時に認知症のない65歳以上の3434名。2回の対象者登録期間があり1度目は1994年-1996年、2度目は2000年-2003年、また、2004年以降は随時登録とした(死亡などによるドロップアウトの補充分)。

【主要アウトカム】
前向きの地域住民をベースにした研究(時間軸ありのコホート研究)

【結果】
平均フォローアップ期間は7.3年で、797名(23.2%)が認知症を発症し、うち637名がアルツハイマー病であった。認知症の発症については、ベンゾジアゼピン累積使用量を3つに分け、ベンゾジアゼピンの非使用者をリファレンスグループとして調整ハザード比を計算したところ、1-30TSDDsのグループが1.25(1.03-1.51)、31-120TSDDsのグループが1.31(1.00-1.71)、121以上が1.07(0.82-1.39)であった。アルツハイマー病の発症についても同様の結果であった。ベンゾジアゼピン累積使用量が多いことが認知機能低下に関連しているとは認められなかった。

【結論】
認知症発症のリスクはベンゾジアゼピン累積使用量が中等度の者が非使用者に比べて若干高かったが、最も累積使用量が多い者とは関連を認めなかった。これらの結果は、ベンゾジアゼピン使用と認知症の関連に因果関係を認めるものではない。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■交絡因子が十分であったか?ベンゾジアゼピン以外にも、認知症発症に関わりそうな薬剤の服用が他にもあったかもしれない。ベンゾジアゼピン以外の薬剤の服用についてでも補正が必要であったかもしれない。アルコールの消費が交絡因子で入っていないが、アルコール多飲は認知機能に影響があることは知られている。アルコールの消費量について補正が必要であったかもしれない。
    ■薬剤アドヒアランスについて、対象者の30%に過去10年間で1度以上のベンゾジアゼピンの投与があり、頓服も含んでいるものと考えられる。しかし、処方箋のみをレビューしており、アドヒアランスの記載がない。薬剤の研究を行うときは、収集が難しいところではあるが、やはり服用のアドヒアランスに関する情報は欲しいところである。
    ■ベンゾジアゼピン系の薬が認知機能に障害を及ぼすというのは既知である事実かと思っていたが、今回の結果は認知症新規発症には寄与しないという結果であった。これまでの研究は前駆症状に対する処方とベンゾジアゼピンが起因となって認知症が発症しているという事実を分けて分析ができていないと著者らは述べている。しかしながら、ベンゾジアゼピン系によって転倒を起こしたりする結果、間接的に高齢者が認知症になってしまうことも考えられるため、今後も医療者は注意してベンゾジアゼピン系の投与やモニタリングを患者に行うべきと述べている。この研究結果を受けて、これまでの臨床業務への影響はあまりないように思うが、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与と認知症の因果関係を検討したという点が評価されたように思う。


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