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社会医学講座 | 山梨大学医学部

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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2016.6.29

2016年6月29日    担当:秋山

A Trial of Calcium and Vitamin D for the Prevention of Colorectal Adenomas
~ 大腸腺腫予防のためのカルシウムとビタミンDの試験 ~
出典: N Engl J Med 2015; 373:1519-1530October 15, 2015DOI: 10.1056/NEJMoa1500409
著者: John A. Baron, Elizabeth L. Barry, Leila A. Mott, et al.
<論文の要約>
【背景】
ビタミンDの摂取量・血中濃度がより高いこと、カルシウムの摂取量がより高いことで結腸直腸悪性新生物のリスクが低下することが疫学データ、前臨床データから示唆されている。これらの栄養素による化学予防の可能性をさらに検討するために、大腸腺腫の予防を目的としたビタミンD、カルシウム、またはその両方の摂取について、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を行った。

【方法】
最近大腸腺腫と診断され、全大腸内視鏡検査後、遺残大腸ポリープが確認されていない患者を登録した。部分的2×2要因デザインを用いて、2,259人の参加者を、ビタミンD3(1,000 IU/日)を摂取する群、カルシウム(炭酸塩)(1,200 mg/日)を摂取する群、両方を摂取する群、いずれも摂取しない(プラセボ)群にランダムに割り付けた。女性は、カルシウムとビタミンDの併用群またはカルシウム単独群への無作為割付けを選択することができた。追跡大腸内視鏡検査は、内視鏡医の推奨に従い、ベースライン検査後3年または5年の時点で行う予定とした。主要エンドポイントは、ランダム化以降、予定されたサーベイランス大腸内視鏡検査までの期間に診断される腺腫とした。

【結果】
ビタミンD群にランダムに割り付けられた参加者において、プラセボ群の参加者との比較における血清25-ヒドロキシビタミンD濃度の純平均増加は7.83 ng/mLであった。全体では、参加者の43%が追跡期間中に1つ以上の腺腫の診断を受けた。腺腫の再発の調整済みリスク比は、ビタミンD群とビタミンDなし群との比較で0.99(95%信頼区間 [CI]: 0.89-1.09)、カルシウム群とカルシウムなし群との比較で0.95(95%CI: 0.85-1.06)、併用群とプラセボ群との比較で0.93(95%CI: 0.80-1.08)であった。進行した腺腫についての結果も同様であった。重篤な有害事象はほとんど認められなかった。

【結論】
大腸腺腫切除後にビタミンD3(1,000 IU/日)、カルシウム(1,200 mg/日)、またはそれらの両方を摂取しても、3から5年間の大腸腺腫の再発リスクに有意な低下は見られなかった。(助成は米国国立癌研究所による。ClinicalTrials.gov登録番号: NCT00153816)


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■文献によれば、1cm以上の腺腫では癌を含む確率が急激に高まると言われている。そして腺腫は大きさや形により悪性化する確率は異なる。また良性の腺腫の再発率は、切除対象となった腺腫の数や進行度によって異なり、高リスクの腺腫の場合は再発する可能性が高い。本論文のStudy Questionがもし本当だとしたら、ビタミンDやカルシウムをサプリメント又は食品から摂取することで腺腫の再発やその癌化を抑えることができることになり、臨床的意義は大きいといえるだろう。
    ■6ヶ月ごとに電話でサプリメントの摂取状況を確認しており、その結果、アドヒアランスが高かったと結論付けている。しかし、電話での確認という方法によって得られた結果は、必ずしも正確とは言えない。家族が飲んでいたり、売っていたりする可能性を考える。
    ■限界として、「ビタミンDの投与量(1,000 IU/日)が多くの専門家が現在推奨している量よりも少ない」と述べているが、一方、結果では、「本研究のビタミンD容量は現在の70歳までの成人の推奨量(600 IU/日)を超えた」と述べており、整合性が取れていないように思われた。推奨量は、ほとんどすべての(97~98%)健常人が栄養所要量を満たすのに十分な平均1日摂取量であることから、今回の投与量は少ないとは言えないのではないだろうか。
    ■女性は、ビタミンD摂取群、カルシウム摂取群、ビタミンD+カルシウム摂取群、プラセボ群の全要因デザインに割り付けられるか、カルシウム摂取群またはカルシウム+ビタミンD摂取群の2群ランダム化に割り付けられるかを選択することができた、と記載されている。しかし、なぜ女性のみが選択できたのかという理由が本文に記載されていない。別のデザイン論文には本人が骨粗鬆症を予防する事の選択肢を残すため、と記載されている。本論文だけを読む人でも理解できるよう親切に記載したほうがよいと考える。


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