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社会医学講座 | 山梨大学医学部

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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2016.11.30

2016年11月30日    担当:大出

Effect of Palliative Care窶鏑ed Meetings for Families of Patients With Chronic Critical Illness A Randomized Clinical Trial
~ 長期重症患者の家族に対する緩和ケア医師主導ミーティングの効果について―無作為比較試験― ~
出典: Journal of the American Medical Association (JAMA), 316(1), 51-62.
著者: Shannon S. Carson, MD; Christopher E. Cox, MD, MPH; SylvanWallenstein, PhD; Laura C. Hanson, MD, MPH;Marion Danis, MD; James A Tulsky, MD; Emily Chai, MD; Judith E. Nelson, MD, JD.
<論文の要約>
【重要性】
長期重症患者の家族や介護者は重大な心理的ストレスを感じている

【目的】
長期重症患者の家族に対する緩和ケア科医師主導による情報提供と感情サポートは、患者家族の不安やうつ状態に回復に寄与するか

【デザイン、セッティング、対象者】
多施設無作為比較試験を2010年10月から2014年11月、4つの医療機関のICU病棟において行った。21歳以上の成人で、7日以上の人工呼吸器を装着した患者が対象となった。不安尺度やうつ尺度の評価者は、面談を受けた家族が介入群かコントロール群のどちらに所属しているかは盲検化されて評価した。

【介入】
少なくとも2回のプロトコルに沿った緩和ケア科医師主導(緩和ケア医師、ナースプラクティショナー、ソーシャルワーカー、チャプレンなど)の面談と資料の配布が家族に対して行われた。コントロール群には通常とおりのICUスタッフによる面談と資料の配布を行った。介入群は130名の患者と184名の家族、コントロール群は126名の患者と181名の家族がそれぞれ振り分けられた。

【主要アウトカム】
主要アウトカムは、HADSスコアで、(Hospital Anxiety and Depression Scale-うつ症状が0がもっともなく、42が最も悪い。)面談後3ヶ月のフォローアップ時に、患者の意思決定に深く関わるキーパーソン(家族)から収集した。二次アウトカムは、IES-R(ポストトラウマスケール Impact of Events Scale-Revised-トラウマ症状が0がもっともなく、88が最も悪い)、このほかに、患者満足度、在院日数、90日生存を収集した。

【結果】
365名の家族(平均51歳、71%女性)のうち、312名が研究を完遂した。3ヶ月フォローアップ時に、不安とうつ症状は両群で有意な差は見られなかった(調整平均HADSスコアは12.2vs11.4で、グループ間の差は0.8(95%CI:-0.9~2.6), p=0.34)。PTSD症状は、コントロール群に比べて介入群において有意に高値であった(調整平均IES-スコアは25.9vs21.3で、グループ間の差は4.60(95%CI:0.01~9.10), p=0.0495)。患者の要望は両群に差はなく(介入群75%vs83%, Odds Ratio 0.63 (95%CI:0.34~1.16), p=0.14)、患者の在院日数の中央値と90日生存率にも有意な差は認めなかった。(在院日数の中央値19日vs 23日、グループ間の差は-4日、(95%CI:-6~3日), p=0.51、90日生存、Hazard Ratio 0.95 (95%CI:0.65~1.38), p=0.96)。

【結語】
長期重症患者の家族の間で、緩和ケア科医師による情報と感情サポートは、従来の方法に比べて、不安やうつ症状の改善にはつながらず、PTSD症状を上昇させる可能性があった。本研究の結果、緩和ケア科医師による長期重症患者の家族に対する面談を必須とすることは、薦められない。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■東日本大震災時に、被災者に対して心理ケアに携わったときの状況と類似し、納得のいく結果である。15年ほど前のPTSD患者への対応として、臨床心理士は、なるべく辛い思いを吐き出させるという行為がケアの主流であったが、昨今は本人が話したくなるまで待つほうがよいという考えが主流である。
    ■臨床現場において、医療従事者は、患者ケアの改善を考えて日々様々な介入に取り組んでいる。一方で、できるだけ患者を実験研究の対象としたくないという心理が働くため、RCTは避けられがちである。しかしながら、本研究のように予想しないところで、医療者による介入が、実は患者に不利益を与えている可能性があることが、研究の結果からわかることもあるため、RCTは大切である。
    ■なぜ評価のタイミングを最終面接の日から90日としたのかに関する記述がもう少しあってもよかったかもしれない。90日以降も患者家族の気持ちは、揺れ動いているはずである。


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