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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2017.3.1

2017年3月1日    担当:田中

Association between breastfeeding and intelligence, educational attainment, and income at 30
years of age: a prospective birth cohort study from Brazil
~ 母乳哺育と知能、学歴、30歳時の収入の関連:ブラジルの前向き出生コホート研究 ~
出典: Lancet Glob Hearth 2015:3:e199-205
著者: CesarG Victoria, Bernardo Lessa Horta, Chrisian Loret de Mola, Luciana QuevedoTavaresPinheiro, Denise P Gigante, Helen Goncalvas, Fernando C Barros
<論文の要約>
【背景】
母乳哺育の短期的な恩恵は明確になっているが、長期的な人的資本との因果関係については未だ確立されていない。我々は母乳を与えられた期間と知能指数 (IQ)、学歴、30歳時の収入の関連を評価するため、母乳哺育の社会的なバイアスが強くないような設定の下、研究を実施した。

【デザイン】
前向き出生コホート研究

【セッティング】
1982年から前向きに、ブラジルのペロタスで新生児を対象とした人口ベースの出生コホート研究を実施した。母乳哺育に関する情報は幼児期に収集した。30歳時点でのIQ (ウェクスラー成人知能検査Ⅲ)、学歴、収入について調査した。解析は10の交絡変数で調整した線形モデルとG-formulaによった。

【対象者】
ブラジルのペロタスで出生した新生児

【結果】
2012年6月4日から2013年2月28日までに組み入れられた新生児の5914人のうち、3493人からIQと母乳を与えられた期間に関する情報を収集した。粗解析及び多変量解析からは、母乳を与えられた期間と母乳以外のものを与えられた時期とIQ、学歴、収入には正の関連があった。母乳を与えられた期間とIQ、学歴の間に用量反応性が存在することが確認された。交絡調整後の解析からは、12ヶ月以上の期間母乳で育てられた者は、1ヶ月未満の期間母乳で育てられた者に比較してIQが高く (3.76ポイント, 95%信頼区間: 2.20窶骭€5.33)、学歴が長く (0.9年, 95%信頼区間: 0.42窶骭€1.40)、月収が多かった (341.0 Brazilian reals, 95%信頼区間: 93.8窶骭€588.3)。mediation analysisよれば、収入の72%がIQに起因することが示唆された。

【結論】
母乳哺育は、30年後の知能テスト成績の向上と関連していた。母乳哺育は現実社会で学歴や成人期の収入を増加させるような重要な効果があるかもしれない。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■母集団をブラジルの市街地で出生した者と設定しているため、人種(アジア系)、貧困地域に居住する者を含んでいないと考えられる。このため、ブラジルにおける母乳哺育とIQ、学歴、収入の関係を他のブラジル人や他の国の人に外挿するには限界があるだろう。
    ■出生時の家計収入が多いほど30歳時点のIQが高いことが示されている。そのことに関する考察が欲しい。
    ■成人期のIQを決定する要因の多くは、遺伝や生育環境であると言われている。この研究は両親のIQを考慮しておらず、母乳哺育期間と30歳時点のIQに本当に関連があるかどうかが分からない。


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