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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2017.10.18

2017年10日18日    担当:春山

Does happiness itself directly affect mortality? The prospective UK Million Women Study
~ 幸福感は直接死亡率に影響するか?イギリスMillion Women Studyからの前向き研究 ~
出典: Lancet.2016;387:874-81
著者: Bette Liu, Sarah Floud, Kirstin Pirie, Jane Green, Richard Peto, Valerie Beral, for the Million Women Study Collaborators
<論文の要約>
【背景】
不健康な状態は不幸感を引き起こし、死亡率を高める。幸福感に関連した先行研究では不健康により不幸を感じており、死亡率の増大に関連したと説明している。また、不幸感は死亡率に影響する生活習慣因子にも関連する。我々は不健康と、不幸と感じる人々の生活習慣を考慮したうえでも、幸福や主観的な安寧が直接的に死亡率を下げるのかを立証することを目的とした。

【方法】
Million Women Studyは1996年から2001年までにリクルートされ、死因別の死亡率を電子的に追跡している。リクルートの3年後、ベースラインの質問紙で健康の自己評価、幸福感、ストレス、コントロール感、リラックスしているかを尋ねた。主要な解析は、ベースライン時点で心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、癌がなかった女性の2012年1月までの全死亡と虚血性心疾患、癌による死亡について行った。コックス回帰を用いてベースラインの主観的健康観と生活習慣因子を調整し、不幸である(時々幸せ、まれに、全く)と答えた人と、ほとんどの時間幸せであると答えた人の死亡率を比較した。

【結果】
メイン解析に含まれた719671人(年齢の中央値59歳[IQR 55-63]) のうち、39%が「ほとんどの時間幸せ」と回答し、44%(315874)は普段は幸せ、17%(121178)は不幸せと答えた。10年間のフォローアップ期間(SD2)の間に4%(31531)人が死亡した。ベースライン時に主観的健康観で不健康と回答した人は不幸感と強く関連していた。しかし、主観的健康観、高血圧治療、糖尿病、喘息、関節炎、うつ、不安、社会人口学的要因と生活習慣因子(喫煙、貧困、BMI)を調整した後では、不幸感と全ての死因の死亡率(「不幸である」vs「ほとんどの時間幸せ」調整済みRR 0.98、95%信頼区間0.94-1.01)、虚血性心疾患による死亡率(0.97、0.87-1.10)、癌による死亡率(0.98、0.93-1.02)で関連は見られなかった。ストレスや自分と周囲をコントロールできていないと感じていることについても同様に関連がなくなった。

【解釈】
中年女性では健康でないことは不幸感を引き起こす。潜在的な交絡を調整した後、幸福感や安寧に関連する測定は直接的には死亡率に影響していなかった。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■Million Women Studyの参加者は、イギリスの乳がんスクリーニング検査の参加者からリクルートされている。「乳がんが心配」という人が検査を受けることになるため、不幸感寄りにバイアスのかかった調査対象だろう。
    ■「概ね幸せ(generally happy)」と強い関連があったものとして、より高齢であること、教育年数が少ないことが挙がっている。リクルート時に60代であった人たちは現在80代であり、時代背景から教育歴が低かっただろう。この二つは同じ関連を見ている可能性がある。
    ■激しい運動(0、週3時間未満、週3時間以上)、飲酒(0、週7回未満、週7日以上)など、カテゴリーの区分が極端に行われていると思われる項目があった。もう少し細分化したカテゴリーでの検討が必要ではないかと考えられた。
    ■他の研究では複数の項目を自分で評価してそれらを総合して幸福感として評価していることが多い。この研究では幸福感を1項目で評価している。また「主観的健康度」は20年前から使用されており、まさしく主観が大きく影響することが知られている。本研究で用いた幸福感についても主観的健康度と同様、1項目であっても研究に使って良いと考えられた。
    ■喫煙が交絡として調整されている。不幸感と死と関連する不健康なライフスタイルとの関連の中で、喫煙は中間変数にもなりうる。調整変数として調整すべきか、中間変数として取り扱うべきか、難しい。


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