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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2018.1.10

2018年1月10日    担当:久島(小俣)・日吉

Life Expectancy after Myocardial Infarction, According to Hospital Performance
~ 病院のパフォーマンスによる心筋梗塞後の平均余命 ~
出典: The New England Journal of Medicine: October 6, 2016 Vol.375 No.14
著者: Emily M. Bucholz, M.D., Ph.D., M.P.H., Neel M. Butala, M.D., Shuangge Ma, Ph.D., Sharon Lise T. Normand, Ph.D., and Harlan M. Krumholz, M.D.
<論文の要約>
【背景】
急性心筋梗塞後の30日間のリスク標準化死亡率は、病院のパフォーマンスを評価し比較するために一般的に使用される。しかしながら、早期急性心筋梗塞患者の生存における病院間の相違が長期生存の差と関連しているかどうかは知られていない。

【方法】
1994-96年の間に急性心筋梗塞で入院し、17年間の追跡調査をうけたメディケア受給者の研究である「共同心血管プロジェクト(Cooperative Cardiovascular Project:CCP)」のデータを分析した。ケースミックスの重大性に基づいて病院を5つの階層にグループ化した。各ケースミックス層の中で、ハイパフォーマンスとローパフォーマンスの病院に入院した患者の平均余命を比較した。病院のパフォーマンスは、30日間のリスク標準化死亡率の五分位によって定義された。平均余命を計算するためにCox比例ハザードモデルを使用した。

【結果】
研究対象は、1,824の病院に入院した急性心筋梗塞患者119,735例であった。各ケースミックス層内で、リスク標準化死亡率の各五分位の病院に入院した患者の生存曲線は、最初の30日以内に分離され、その後17年間にわたり平行のままであった。病院のリスク標準化死亡率五分位が増加するにつれ、平均余命は減少した。平均して、ハイパフォーマンスの病院で治療された患者は、病院のケースミックスに応じて、ローパフォーマンスの病院で治療された患者よりも0.7401.14年長く生存していた。30日間の生存者を別々に調査した場合、病院のリスク標準化死亡率五分位間の未調整または調整された平均余命に有意な差はなかった。

【結論】
急性心筋梗塞後にハイパフォーマンスの病院に入院した患者は、ローパフォーマンスの病院で治療した患者よりも平均余命が長かった。この延命効果は、最初の30日間に生じ、長期にわたって持続した。(米国国立心臓・肺・血液研究所、米国国立総合医科学研究所の医学者訓練プログラムから資金提供を受けた。)


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■いままで病院の質と規格を測定するためのベンチマークとして標準化病院死亡比(Hospital Standardized Ratio: HSMR)が使用される事が多かったが、新たに入院期間まで考慮できる指標としてリスク標準化死亡率が考案された。しかし、殆どの研究が心筋梗塞を対象にしている。その他の疾患でも同様の結果が出るかについてはさらなる検討が必要と考えられる。
    ■リスク標準化死亡率について、入院後30日が検討する期間として妥当なのか、急性疾患でなく慢性疾患(悪性腫瘍など)であれば、どの程度の期間が妥当なのか等、疾患の特徴により観察すべき期間を変更する必要があるかに付いても、今後検討出来ると良いだろう。
    ■本研究では数式モデルにより平均余命を予測して計算されたことで、長期に渡る延命効果を示すことができた。しかし、予測によるデータを外挿していることから、モデルに関する信頼性は実データのみを利用した場合よりは低くなってしまうだろう。
    ■患者の重症度を調整因子とするのではなく、それにより層化して病院パフォーマンスと長期予後との関連を見出したことで、病院に来る患者背景に予後が悪い理由を帰着させることはできないように研究がデザインされている。この研究結果は今後の病院運営や診療パフォーマンスの重要性に関して、大きなインパクトを与えるであろう。


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