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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2018.2.7

2018年2月7日    担当:太田

Contribution of Socioeconomic Status at 3 Life-Course Periods to Late-Life Memory Function and Decline: Early and Late Predictors of Dementia Risk.
~ ライフコースの三時期における社会経済的状況が晩期の記憶機能と記憶低下におよぼす影響:早期と後期の認知症リスク予測因子 ~
出典: AM J. EPIDEMIOLOGY 2017 Oct 1;186(7):805-814.
著者: Marden JR, Tchetgen Tchetgen EJ, Kawachi I, Glymour MM.
<論文の要約>
【目的】
幼児期と12歳まで、18歳までのSES(Socioeconomic Status)は晩期の記憶の程度を予測させる。しかし、SESと記憶低下との関係は根拠が混乱している。さらに、ライフコースの異なった時期が晩期の記憶低下速度に及ぼす時期別の重要性は、評価されていない。この研究では、ライフコースのある時期でのSESと晩期の記憶機能(memory function)と記憶低下(memory decline)との関係を調べる。

【方法】
Health and Retirement Study(アメリカ)の参加者(n=10.781)に1998年から2012年の間に2年に一度のインタビューを実施。幼児期(両親の教育歴を含めた合成スコア)、18歳まで(高校または大学卒業)、晩期(平均66歳の収入)のSES計測をすべて二分した。単語表の記憶能力を、脱落例ならびに継続例、時間依存性の交絡を考慮し逆確率を重み付けした縦断的解析によってモデル化した。答えられない人には代理人からの解答を許した。

【結果】
3つのすべての時期で低いSES(基準)群と比較して、高いSESは最高の記憶機能と最も遅い記憶機能低下を予測した。高校卒業は記憶機能に対して最大の効果を推定した(β = 0.19; 95%信頼区間: 0.15, 0.22)、しかし晩期の高額な収入は記憶機能の衰退を遅らせるために最大の利益を推定した(10年間の記憶変化、β = 0.35; 95%信頼区間: 0.24, 0.46)。

【参加者】
イギリスの22地域から募集された263,540人(女性:106,674人(52%)、平均年齢52.6歳)。曝露変数は、日常の通勤手段(徒歩、自転車、複合形態、非活動的(車や公共交通機関))。

【結論】
18歳までと晩期との両方の介入は、記憶機能の改善あるいは衰退を遅らせることによって、認知症リスクを減らすことに潜在的に関係がある。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■Table1.で、childhood social capital のNo. of Participants は 0.97% なので非常に少数ということが推測される。Table2で教育年数の平均は 12.69年なのでほとんどの被験者は12年の教育歴だったことが推測される。当時の教育環境から高校の最終学歴が多いのは想像がつくため、人数の記載が省略されたと考えた。
    ■Table3と5においてβがマイナスであっても95%信頼区間がマイナスでないもの、βが信頼区間に含まれない記載が多く目立ったが誤植の可能性が高い。
    ■Discussionで民族、人種、性、年齢の違いによる機序を検討することが今後の課題とある。今回のデータからによってもこの点についてはある程度の検討が可能だったのではないかと推測される。本論文には記載がされていないため検討はされたかどうか不明である。
    ■日本において幼児期の社会経済要因が成人期の健康状態に影響するかという研究はあったが、晩期の認知機能にまで影響するかという前向き研究は見つけられなかった。将来、甲州プロジェクトやエコチルのデータからこのような研究報告が可能になるかもしれない。


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