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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2018.6.20

2018年6月20日    担当:原田

Living near major roads and the incidence of dementia, Parkinson’s disease, and multiple sclerosis: a population-based cohort study
~ 主要道路付近の生活と認知症・パーキンソン病・多発性硬化症の発症について:集団ベースコホート研究 ~
出典: Lancet 2017、389:718-26
著者: Hong Chen, Jeffrey C Kwong, Ray Copes, Karen Tu, Paul J Villeneuve,et al
<論文の要約>
【背景】
最近、主要道路の近くに住む事は認知に悪影響を与える可能性がある事を示唆するエビデンスが登場している。しかし、主要道路の近くに住む事と、認知症・パーキンソン病・多発性硬化症の発症との関係についてはほとんど知られていない。そこで、カナダのオンタリオ州の幹線道路に住居が近い事とこれらの3つの神経疾患の発症との関連性を調査する事を目的として本研究を行った。

【方法】
この研究は、2001年4月1日にカナダのオンタリオ州に居住していた20~50歳の全成人(約440万人;多発性硬化症コホート)および55~85歳の全成人(約220万人;認知症・パーキンソン病コホート)の2つの人口ベースのコホートで組み立てられている。参加者は、3つの神経疾患が無く、5年以上オンタリオ州の住民であり、カナダ生まれであることとした。コホート開始5年前の1996年の居住地郵便番号の住所に基づき、各幹線道路への近さを確認した。認知症・パーキンソン病・多発性硬化症の診断は、地方の健康管理データベースから確認した。糖尿病・脳損傷・地域住民レベルの収入などの個人的および文脈的要因に合わせて、Cox比例ハザードモデルを使用して道路への近接と認知症・パーキンソン病・多発性硬化症との関連性を評価した。また、神経科医へのアクセスや選択された大気汚染物質への曝露・転居した事がない者や都市住民への制限などの調整を行ない、様々な感度分析を行った。

【結果】
2001年~2012年にかけて、認知症243,611例・パーキンソン病31,577例・多発性硬化症9,247例を確認した。300mより大きい群に対する認知症の調整済みハザード比(HR)は、主要道路から50m未満:1.07(95%CI:1.06-1,08)、50m~100m:1.04(95%CI:1.02-1.05)、101~200m:1.02(95%CI:1.01-1.03)、201~300m:1.00(95%CI:0.99-1.01)であった(トレンドp値= 0.0349)。この関連は感度分析を行なっても頑健であり、都市部の住民(特に大都市に住む人々):主要道路から50m未満:HR 1.12(95%CI:1.10-1.14)や、引っ越した事がない人:主要道路から50m未満:HR1.12(95%CI 1.10-1.14)で強く見られた。パーキンソン病または多発性硬化症との関連を認めなかった。

【解釈】
交通量が多い場所の近くに住む事は、認知症の発症と関連していた。しかし、パーキンソン病または多発性硬化症とは関連していなかった。 【資金調達:Health Canada (MOA-4500314182)】


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■本研究では、PM2.5の4年間における平均濃度を1×1kmの空中分解能で算出し、その濃度を各主要道路からの距離カテゴリへ当てはめる事でPM2.5の曝露を推定している。しかし、各地域単位でPM2.5の推定値を変数として用いている為に、PM2.5による曝露は主要道路からの距離によるものではなく、地域差による影響を見てしまっている可能性が考えられる。
    ■本研究では、個人レベルでの社会経済的状況はデータの利用が不可能であった為、収集されていなかった。社会経済的状況の情報がないことについては著者らも限界の一つとして挙げているが、社会経済的状況は本研究内容において重要な交絡因子であると考えられることから、今回は叶わなかったが、個人レベルの社会経済状況での調整ができると良かったと感じた。
    ■本研究においてDementiaの種類は明記されていなかった為、様々な病型を包括してDementiaとしていると考えられる。Dementiaの各種類は発症機序が異なるため、主要道路からの距離や大気汚染物質による影響に差が出る可能性も考えられる為、Dementiaの種類を分けて検討する事も良いのではないかと考える。


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