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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2018.9.26

2018年9月26日    担当:日吉

The 2016 global and national burden of diabetes mellitus attributable to PM2.5 air pollution
~ PM2.5大気汚染に起因する糖尿病の2016年の世界的および国民的負荷 ~
出典: Lancet Planet Health 2018; 2: e301-12
著者: Benjamin Bowe, Yan Xie, Tingting Li, Yan Yan, Hong Xian, Ziyad Al-Aly
<論文の要約>
【背景】
PM2.5による大気汚染は糖尿病のリスク上昇に関連している。しかし、そこには知識の乖離が存在し、PM2.5による大気汚染に起因する糖尿病の負担を再定義し、定量化する必要がある。それゆえ、我々はPM2.5と糖尿病との関係を定義することを目的とした。また、PM2.5に起因する糖尿病の世界的および国家的負担を、積分化曝露反応関数で特徴付け、量的な推定を提供することを目的とした。

【方法】
我々は、PM2.5と糖尿病との関連性に関する縦断コホート研究を行った。様々なデータベースから糖尿病歴のない米国の退役軍人を集めた。参加者は中央値で8.5年間追跡調査され、生存モデルを使用してPM2.5と糖尿病のリスクとの関連性を調べた。すべてのモデルは、社会人口学的および健康的特徴について調整された。ポジティブ・アウトカム・コントロール(すなわち、全死亡原因のリスク)、ネガティブ・エクスポージャー・コントロール(すなわち、大気中のナトリウム濃度)、およびネガティブ・アウトカム・コントロール(すなわち、下肢骨折のリスク)に対する分析を行った。モデルのデータは、ハザード比(HR)および95%CIとして報告された。さらに、PM2.5および糖尿病リスクの研究をレビューし、PM2.5のすべての濃度にわたる関係を特徴付ける非線形積分化曝露反応関数を組み立てるために推定値を使用した。ニューカッスル・オタワ品質評価尺度で少なくとも4点を獲得し、結果が2型糖尿病またはすべてのタイプの糖尿病である場合、積分化曝露反応関数の組み立てに研究を含めることにした。最後に、世界的な、そして194の国と地域でPM2.5による大気汚染に起因する疾病負荷度(ABD)および糖尿病の障害調整生存年数(DALYs)を推定するために、疾病による世界的負担(GBD)の研究データと方法論を使用した。

【結果】
我々は、PM2.5と糖尿病のリスクとの関係を、縦断コホートとして1,729,108人を中央値8.5年(IQR 8.1-8.8)追跡調査した。調整モデルでは、PM2.5の10μg/m3の増加は、糖尿病のリスク増加と関連していた(HR1.15, 95% CI 1.08-1.22)。PM2.5は、ポジティブ・アウトカム・コントロールとしての死亡リスクの上昇と関連していたが(HR 1.08, 95% CI 1.03-1.13)、ネガティブ・アウトカム・コントロールとしての下肢骨折では関連していなかった(1.00、 0.91-1.09)。ネガティブ・エクスポージャー・コントロールとしての大気中のナトリウム濃度におけるIQRの増加(0.045μg/m3)は、糖尿病のリスクと有意な関連性を示さなかった(HR1.00, 95% CI 0.99-1.00)。積分化曝露反応関数は、糖尿病のリスクが2.4μg/ m3上回ると大幅に上昇し、10μg/ m3を超える濃度ではより緩やかな増加を示した。世界的にみると、PM2.5の環境は約320万件(95%不確定区間[UI]: 220万-380万)の糖尿病の発生、糖尿病に起因する約820万年(95%UI: 580万-1100万)DALYs、およびPM2.5曝露に起因する糖尿病による死亡者206,105人(95%UI: 153,408-259,119)の一因となった。その負担は、地理的に大きく異なり、低所得国と中低所得国に大きく偏っていた。

【解釈】
PM2.5の大気汚染に起因する糖尿病の世界的な警鐘は有意である。曝露の減少は、実質的な健康上の利益をもたらす。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■受動喫煙と能動喫煙を高濃度のPM2.5の代用暴露として用いていることや、定量化のために積分化曝露反応関数を導き出す試みは、複雑ではあるがPM2.5の影響を正確に見える化するための良い取り組みである。
    ■PM2.5と糖尿病の発症リスクを考察する際に、ポジティブ・アウトカム・コントロール、ネガティブ・アウトカム・コントロール、ネガティブ・エクスポージャー・コントロールという3つのコントロールを置くことにより、目的とする研究結果の信頼性を高めることが出来ている。
    ■PM2.5という粒子の中味については考察されていない。例えば、PM1以下の小さい物と、2.5程度の大きさのものでは、影響が異なる可能性があるし、粒子の形によってメカニズムに違いが出る可能性もあるだろう。


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