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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2018.10.3

2018年10月3日    担当:平出

Dental procedures, antibiotic prophylaxis, and endocarditis among people with prosthetic heart valves: nationwide population based cohort and a case crossover study
~ 人工心臓弁を有する人々の歯科処置、抗生剤予防および心内膜炎:全国規模集団ベースコホートおよびケースクロスオーバー試験 ~
出典: BMJ 2017;358:j3776
著者: Sarah Tubiana, Pierre-Olivier Blotiere, Bruno Hoen, Philippe Lesclous, Sarah Millot, Jeremie Rudant, Alain Weill, Joel Coste, Francois Alla, Xavier Duval1
<論文の要約>
【目的】
人工心臓弁を有する人々の間で、侵襲的歯科処置と口腔連鎖球菌に関連する感染性心内膜炎との関係を評価すること

【デザイン】
全国集団ベースコホートとケースクロスオーバー研究

【セッティング】
国民退院データベースにリンクされたフランス国民健康保険行政データ

【参加者】
2008年7月から2014年7月の間に、人工心臓弁置換術または形成術のための医療処置コードを有し、フランスに居住する18歳以上の全ての成人

【主要アウトカム指標】
口腔連鎖球菌感染性心内膜炎は、主要退院時診断コードを用いて同定された。コホート研究では、ポアソン回帰モデルを実施して、侵襲的歯科処置後の3ヶ月間の口腔連鎖球菌感染性心内膜炎の発生率を非曝露期間と比較して推定した。クロスオーバー試験では、条件付きロジスティック回帰モデルは、口腔連鎖球菌感染性心内膜炎に先立つ3ヶ月の侵襲的歯科処置への曝露と3回の早期の対照期間を比較して、オッズ比および95%信頼区間を計算した。

【結果】
コホートには、人工心臓弁を有する138,876人の成人(285,034人年)が含まれた; 69,303(49.9%)は、少なくとも1回の歯科処置を受けた。実施された396,615人の歯科処置のうち、103,463人(26.0%)が侵襲的であったため、抗生物質を適応する必要があり、それは52,280(50.1%)で実施された。追跡期間中央値1.7年で、口腔連鎖球菌に関連する感染性心内膜炎が267人発生した(発生率93.7/100,000人年、95%信頼区間82.4-104.9)。非曝露期間と比較して、侵襲的歯科処置の後(相対率1.25,95%信頼区間0.82-1.82; P = 0.26)および抗生物質予防を伴わない侵襲的歯科処置の後(1.57,0.90-2.53; P = 0.08)の3ヶ月間に、口腔連鎖球菌感染性心内膜炎の割合において統計学的に有意な増加率は認めなかった。クロスオーバー試験の場合、症例期間が対照期間よりも侵襲的歯科処置への曝露が頻繁であった(5.1%vs. 3.2%; オッズ比1.66,95%信頼区間1.05-2.63; P = 0.03)。

【結論】
侵襲的歯科処置は、人工心臓弁を有する成人の感染性心内膜炎の発症に寄与するかもしれない。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■本研究は健康管理データをベースとしているため、個人の生活水準や社会経済状況等の情報の取得が困難だったと推察される。ケースクロスオーバー研究はこれら残差交絡の調整のため行われたと考えられるが、コホート研究において生活水準や社会経済状況といった交絡の影響はあるように考えられた。
    ■本研究において、侵襲的歯科処置と菌血症に関し議論がされているが、歯科処置の他にも菌血症の発症因子となる日常的な要因(例えば擦り傷や切り傷等)があるのではないかと考えられる。それらについての記載はないが、日常生活での曝露も評価するとよりよかったのではないかと考えた。
    ■Table2で侵襲的歯科処置の有無別の抗生剤予防投与の有無と口腔連鎖球菌感染性心内膜炎発症率との関連の結果を示している。その中で、侵襲的歯科処置あり群において、抗生剤予防投与と口腔連鎖球菌感染性心内膜炎発症率との関連は有意差がないため、関連はないと著者は述べている。しかし、抗生剤予防投与なしの非曝露群に対する口腔連鎖球菌感染性心内膜炎発症率のオッズ比は1.58であり、信頼区間は0.90-2.53と下限は1に近い値である。よって、有意差の有無だけで関連がないと言い切ってしまうのはやや危険なように思われた。


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