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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2018.1.9

2018年1月9日    担当:渡辺

Serial circulating omega 3 polyunsaturated fatty acids and healthy ageing among older adults in the Cardiovascular Health Study: prospective cohort study
~ Cardiovascular Health Studyの集団を対象とした連続的な血中のオメガ3系多価不飽和脂肪酸の測定と高齢者の健康的な老化:前向きコホート研究 ~
出典: BMJ open access 10 September 2018, BMJ 2018;363:k4067 | doi: 10.1136/bmj.k4067
著者: Heidi TM Lai, Marcia C de Oliveira Otto, Rozenn N Lemaitre, Barbara McKnight, Xiaoling Song, Irena B King, Paulo HM Chaves, Michelle C Odden, Anne B Newman, David S Siscovick, Dariush Mozaffarian
<論文の要約>
【目的】
バイオマーカーとして血中のオメガ3系多価不飽和脂肪酸(n3-PUFA)の濃度の連続的な測定を行い、オメガ3系多価不飽和脂肪酸と健康な老化に関する縦断的な関連を決定する。

【デザイン】
前向きコホート研究

【セッティング】
1992年から2015年のアメリカの4つのコミュニティ(Cardiovascular Health Study)を用いた。

【参加者】
2622人の成人。年齢は平均年齢74.4(SD4.8)歳で、1992-93年のベースライン時点で健康的な老化をしている者。

【曝露】
1992-93年、1998-99年、2005-06年に血清中のリン酸化n3-PUFAの累積レベルをgas chromatography法で測定し植物由来のαリノレン酸、魚介由来のエイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸を含む総脂肪酸における%で示した。

【主要アウトカム測定】
健康的な老化とは、生存しており慢性疾患がない状態や(慢性疾患とは、心血管疾患、悪性腫瘍、肺疾患、重症腎疾患)、認知機能低下や身体的機能低下がない状態であること、もしくは、65歳以降に健康アウトカムの発生がなく別の原因で死亡した者、と定義する。これらの事象は、医療記録や診断的検査で判断・決定された。

【結果】
長鎖n3-PUFAの高い血中濃度は、時間の経過とともに変化する曝露および共変量による多変量調整後の健康的でない老化の五分位ごとの18%のリスク低下(95%信頼区間7%-28%)と関連した。個々では、高いエイコサペンタエン酸とドコサペンタエン酸(ドコサヘキサエンン酸では見られなかったが)のレベルは、それぞれ15%(6-23%)と16%(6~25%)のリスク低下となっていた。植物由来のαリノレン酸は、不健康な老化と関連はなかった(ハザード比0.92、95%信頼区間は0.83-1.02)。

【結論】
高齢者では、連続的に測定した魚介類由来のn3-PUFA(エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸)、エイコサペンタエン酸およびドコサペンタエン酸(魚介類由来のドコサヘキサエン酸または植物由来のα-リノレン酸は含まない)の累積レベルが高いことは、健康な老化となる可能性が高いことと関連していた。これらの知見は高齢者におけるn3-PUFAsの食事摂取量の増加に関するガイドラインを支持している。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■Crudeのハザード比と調整済みのハザード比を比較すると、αリノレン酸、EPA、DPA、DHA、総合n3-PUFAの各脂肪酸のすべての血漿中の濃度を年齢と性別で調整した結果が、低濃度(Group1)に比べ高濃度(Group5)の方が有意に不健康な老化のリスクが低いという結果であった。参加者の特徴(Table1)をみると、各グループの平均年齢はほぼ同様であり、性別に関しても大きな違いはなく、どちらが影響しているのか不明であった。
    しかし、補足資料のTable J(年齢(74歳以上未満)、性別、ApoE-ε4キャリアー有り無しについて層別して、αリノレン酸、EPA、DPA、DHA、総合n3-PUFAの各脂肪酸のGroup1とGroup5を比較した結果)をみると、有意ではないが、各々のハザード比は年齢ではDPA以外は74歳未満の方が、性別では、いずれも女性の方が、ハザード比が低かった(不健康な老化のリスクが低い)。
    また、補足資料Table Fには、血漿リン脂質αリノレン酸の濃度(5 Group)ごとの参加者情報が示されており、これを見ると平均年齢はほぼ同様であったが、性別は低濃度(Group1)と高濃度(Group5)では女性の割合が約20%異なっていた(Group5の方が女性の割合が高い)。他の脂肪酸についての結果は示されていないが、同様の傾向があるかもしれない。
    以上のことから、Crudeの結果と年齢および性別で調整したハザード比が異なった要因としては性別の影響が推察できる。補足資料に年齢別、性別ごとに調整した結果が示されていると、年齢と性別のどちらが影響を与えているのかを考察することができるのではないかと考えた。
    ■本調査では、参加者のリクルートの際、健康な老人を組み入れている。はじめ6000人弱ほどいた参加者は、半数程度となった。そのため、もともと健康な生活を送っている、偏った集団になっている可能性が考えられる。本文中でlimitationとして、本研究結果は若年者には当てはまらない、と述べられているが、老年者の一般集団(つまり健康な者や不健康な者混在した集団)に対しての一般化も難しいのではないかと思われる。
    ■栄養を扱った研究でバイオマーカーを用いる研究は多くないと思われるため、大変貴重な研究である。しかしながら、我々が経口摂取したn3-PUFAがどれほど体内で吸収されるかは、個々人の遺伝子やバックグランドの特徴、食物の調理方法(煮る、焼く、生、等)によって異なると考えられる。また、体内で生成されるものもあるためバイオマーカーを用いる研究の実施にあたっては、さらなる検討や調整が必要なのかもしれないと感じた。


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