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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2018.2.6

2019年2月6日    担当:北山

The effect of socioeconomic deprivation on the association between an extended measurement of unhealthy lifestyle factors and health outcomes: a prospective analysis of the UK Biobank cohort.
~ 不健康なライフスタイル因子の拡張測定と健康転帰の関連における社会経済的剥奪の影響:UKバイオバンクコホートの予測分析 ~
出典: The LANCET public Health 2018. Nov19 e576-585
著者: Hamish M E Foster*, Carlos A Celis-Morales*, Barbara I Nicholl, Fanny Petermann-Rocha, Jill P Pell, Jason M R Gill, Catherine A O’Donnell, Frances S Mair
<論文の要約>
【背景】
ライフスタイル因子の組み合わせは死亡率を増加させるのに影響する。喫煙やアルコールなどのような典型的因子の組み合わせはよく知られているが、テレビを見ている時間等新たな因子の追加影響については述べられていない。こうした拡張したライフスタイルリスクの社会経済的剥奪の影響もまたはっきりしていない。我々はライフスタイルに関連したリスクファクターの拡張スコアと健康転帰の間で、剥奪指標がその関連を修正するかどうかを調査することを目的とした。

【方法】
この前向き分析のデータはUKバイオバンクが元になっており、前向き集団コホート研究である。我々はすべての参加者に拡張ライフスタイルスコアを与えた、不健康なライフスタイル因子それぞれにつき1ポイント与えた(喫煙、過剰なアルコール、貧しい食事《脂肪分の多い魚、果物、野菜の摂取が少なく、赤みの肉や加工肉の摂取が多い》に加えて、睡眠時間、テレビを見る時間が長い、運動が少ない)。そして最も健康的(スコア0-2)、中程度健康(スコア3-5)、最も健康的でない(スコア6-9)にカテゴリー分けした。コックス比較ハザードモデルがライフスタイルスコアと健康転帰間の関連を調査するために使用された(全死因死亡率、心臓血管系の死亡率、発生率)。そしての関連が剥奪指標によって修正されるかどうかを調査した。全て分析はランドマーク解析であり、参加登録の2年以内にイベント(死亡、心臓血管系の疾病)があった参加者は除外した。非伝染性疾患(高血圧を除く)を持つ参加者と共変量データが欠損しているものは分析から除外した。また、身体活動、睡眠時間、画面を見ている全時間のうち、異常な値を報告した参加者も除外された。全ての分析は年齢、性別、民族性、評価した月、高血圧の既往、収縮期血圧、高コレステロールや高血圧に対しての服薬、BMIのカテゴリーで調整された。

【結果】
年齢40-69歳の328594人の参加者がこの研究に参加し、全死因死亡率及び心臓血管系の死亡率のランドマーク期間後フォローアップ期間の平均は4.9年(標準偏差0.83)、心臓血管系の疾病発症では4.1年(標準偏差0.81)であった。五分位のうち最も裕福な(剥奪の程度が低い)群において、最も健康でないライフスタイルカテゴリーにおける調整されたハザード比(HR)は最も健康的なカテゴリーと比較して、全死亡率で1.65(95%CI1.25-2.19)であり、心臓血管系の疾病死亡率において1.93(1.16-3.20)、心臓血管系の疾病発症において1.29(1.10-1.52)であった。五分位のうち最も貧困である(剥奪の程度が高い)群ではHRsはそれぞれ2.47(95%CI2.04-3.00)、3.36(2.36-4.76)、1.41(1.25-1.60)であった。最も健康でない群に向かった1段階の変化におけるトレンドHRは、最も貧困な群と最も裕福な群で比べて、全死因死亡率が1.25(95%CI1.12-1.39)対1.55(1.40-1.70)、心臓血管系の疾病による死亡率が1.30(1.05-1.61)対1.83(1.54-2.18)、心臓血管系の疾病発症1.10(1.04-1.17)対1.16(1.09-1.23)であった。全死因死亡率と心臓血管系の死亡率において、ライフスタイルと剥奪指標の間に重要な関連が発見された(p(interaction)<0.0001)。しかし、心臓血管系の疾病発症には認められなかった(p(interaction)=0.11)。

【解釈】
広範なライフスタイル因子の組み合わせは、剥奪指標によって損害に不均衡な影響を及ぼす。剥奪の程度を減らすような社会的、財政的な政策が、公衆衛生上においても、貧しい地域におけるより広範囲なライフスタイル因子を取り扱う個人レベルの介入においても、必要とされている。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■ライフスタイルスコア各項目の重み付けが無いため、関与の少ないライフスタイル因子に関して過度に影響があると判断してしまう可能性がある。ただし、本研究では感度分析として、有意に関連しているライフスタイル因子のみのスコアを使用して解析し、同様の結果が得られているため、その可能性を多少は回避できている。
    ■地域レベルや個人レベルでどのように剥奪指標を算定しているかについてもう少し詳細な説明があるとよかった。アンケートによる個人要因(収入、教育、民族等)、看護師により測定された身体項目(体重、BMI等)、タウンゼントスコアを参考にして、十分な評価ができていると考えられるが、それらをどのように組み合わせて指標化し、五分位に分けたかが、本文のみではやや不明瞭である。
    ■十分な参加者がいる大規模前向きコホートで、ライフスタイル因子と剥奪指標の間に存在する交互作用を明らかし、新たな公衆衛生学的アプローチの必要性を提示したこと、ランドマーク解析により因果の逆転も考慮して解析を行った点は本研究の長所と考えられる。


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