PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2019.9.25

2019年9月25日    担当:池谷

Suicide Following Deliberate Self-Harm
~ 意図的な自傷行為後の自殺 ~
出典: The American Journal of Psychiatry,174:8,August 2017.
著者: C Mark Olfson,Melanie Wall,Shuai Wang,Stephen Crystal,Tobias Gerhard,Carlos Blanco.
<論文の要約>
【目的】
著者らは、意図的な自傷行為をしている成人において、自傷行為を繰り返し、翌年に自殺をする危険因子を特定しようとした。

【方法】
意図的な自傷行為と臨床的に診断されたメディケイドに加入する成人の全国コホート(N=61,297)を最高1年まで追跡した。1,000人年当たりの繰り返しの自傷行為と、10万人年当たりの自殺率(National Death Indexの死因情報に基づく)を導いた。繰り返しの自傷行為と自殺のハザード比をCox比例ハザードモデルにより推定した。

【結果】
致命的ではない自傷行為後の12ヵ月間では、繰り返しの自傷行為率 は1,000人年当たり263.2、自殺完遂率は10万人年当たり439.1であり、対応する一般集団コホートよりも37.2倍高かった。自殺の危険性は、非暴力的な方法(ハザード比:7.5、95%CI:5.5~10.1)よりも、初回の暴力的な自傷行為後、特に銃器(ハザード比:15.86、95%CI:10.7~23.4;参考として服毒を使って計算)において高く、直近に外来でメンタルヘルスケアを受けた患者のイベント後では程度が低かった(ハザード比:1.6、95%CI:1.2~2.0)。非暴力的な方法を用いた自傷患者と比較して、暴力的な方法を用いた患者は、初期イベント後の最初の30日間で自殺のリスクが有意に増加したが(ハザード比:17.5、95%CI:11.2~27.3)、その後の335日間では増加しなかった。

【結論】
意図的な自傷行為への治療を経験している成人は、頻繁に翌年に自傷行為を繰り返す。最初の自傷行為、特に銃器を使って暴力的な方法を用いる患者は、特に初期イベント直後に自殺のリスクが非常に高く、このグループの慎重な評価と綿密な追跡の重要性が強調された。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■本研究は、死亡に関する大規模なデータベースがあるからこそ可能となる。本邦においてはNational Death Indexと同等のデータベースは存在しないため、同様の研究を行う事は難しいが、自殺予防の対策を講じるために重要なデータとなり得るため、その整備が検討されるべきであろう。
    ■自殺の状況をめぐる研究では、健康問題や経済的問題など、その原因・動機を分析するものではなく、自殺の方法に焦点を絞って検討した本研究は新規性がある。一方で本研究は米国のみの調査であり、自殺の方法については国ごとの特徴が反映されると考えられるため、他国で本研究結果を当てはめることは難しいかもしれない。
    ■研究の限界でも述べているが、本研究では受診に結びついた自傷行為患者のみを扱っており、受診に結びついていない自傷行為患者は多く存在する事が予測されるため、この存在が研究に対して大きなバイアスを与えている可能性はある。


前のページに戻る