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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2019.10.2

2019年10月2日    担当:北山

The effect of moving to East Village, the former London 2012 Olympic and Paralympic Games Athletes’ Village, on physical activity and adiposity (ENABLE London): a cohort study.
~ 2012年オリンピックおよびパラリンピック競技大会の元選手村であるイーストビレッジへの移住が身体活動と肥満にあたえる影響について(ENABLEロンドン):コホート研究 ~
出典: Lancet Public Health 2019;4:e421-30
著者: Claire M Nightingale, Elizabeth S Limb, Bina Ram, Aparna Shankar, Christelle Clary, Daniel Lewis, Steven Cummins, Duncan Procter, Ashley R Cooper, Angie S Page, Anne Ellaway, Billie Giles-Corti, Peter H Whincup, Alicja R Rudnicka, Derek G Cook, Christopher G Owen
<論文の要約>
【背景】
整備された環境は健康行動に影響を与える可能性があるが、長期的な根拠は限られている。2012年のロンドンオリンピックおよびパラリンピックの元選手村であるイーストビレッジは積極的に運動をすることを促す施設であり、成人の身体活動と肥満の観点において、この村に移住した効果を調べることを目的とした。

【方法】
このコホート研究では、イーストビレッジに新しく住居を探している成人を募集し、イーストビレッジに移住していないコントロール参加者と身体活動と施設環境対策のこれらのデータで比較した。ベースラインと2年後に、加速度測定法で身体活動を、BMIと生体インピーダンスで肥満度を客観的に測定し、施設環境の変化に関する客観的尺度と参加者の認識で評価した。また、性別、年齢層、民族、住宅保有期間、および世帯を調整した後(ランダムな効果として)のイーストビレッジとコントロールグループ間の身体活動と肥満の変化を調査した。

【結果】
2013年1月24日~2016年1月7日の間にベースライン評価のために参加者を募集し、2015年2月24日から2017年10月24日までの2年後まで追跡した。ベースラインでは、1819世帯(世帯あたり成人1人)が調査チームによる最初の連絡に同意した。1006(55%)世帯から1278人(16歳以上)がベースラインに参加し、710(71%)世帯から877人(69%)の成人が2年後に評価された343(48%)世帯から441人(50%)の参加者がイーストビレッジに移住した。 ベースラインでの元の近隣と比較したイーストビレッジ群での歩きやすさと周辺地域の犯罪認識と質の大幅な改善にもかかわらず、イーストビレッジに移住した群とコントロール群の参加者間の1日の平均歩数、中程度から激しい身体活動を行うのに費やした時間(合計または10分以上の運動)、毎日の座りがちな時間、体格指数、または体脂肪率に対するイーストビレッジへの移住との関連は認められなかった。

【解釈】
近隣の認識と歩きやすさの大幅な改善にもかかわらず、イーストビレッジへの移住が身体活動の増加と関連しているという明確な根拠はみつからなかった。独自の施設環境を改善するだけでは、身体活動の増加には不十分かもしれない。



<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■研究は様々な背景の人々に対して、居住環境を変えることで運動に対する行動変容が起きるかを調査したと思われるが、環境だけでは行動変容を起こすことは難しいという結果であった。行動変容を起こさせるためには、個々の背景を考慮し、イーストビレッジ移住後、行動変容に繋がるレクレーションなどの導入や啓発活動などをしていくと良いのかもしれないと考えた。
    ■筆者らが限界で述べているように、1日の平均歩数をだけでは運動量が増えたかどうかを判断することは難しい。また、筆者らは歩数よりMVPAの変化の方が臨床的に重要である可能性があるとも述べているが、それに加え、運動内容や頻度、時間等、もう少し詳細な状況を見て考慮することができたならば、より深い議論ができたかもしれないと考えた。
    ■日本でも2020年に東京オリンピックが開催される。その際の選手村が建設されているのは東京都中央区晴海という場所で、この場所に東京ドーム3個分に匹敵する14~18階建ての宿泊施設21棟と商業棟が整備されることが予定されている。東京オリンピック終了後は、宿泊施設をマンションに改修するだけでなく、50階建てのタワーマンション2棟を建設することになっており、合計約5,650戸のマンション供給が予定されている。東京都の発表した整備計画には、サービス付き高齢者向け住宅や若者向けのシェアハウス、外国人向けのサービスアパートメントなどを建設することが含まれている。過去のオリンピック開催地の選手村は十分に活用されていないところも多いようであるため、日本における選手村は過去の開催地の経験を活かし、計画通り十分に活用されることを期待する。


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