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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

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2019年10月9日    担当:服部

Premature mortality from all causes and drug poisonings in the USA according to socioeconomic status and rurality: an analysis of death certificate data by county from 2000-15.
~ 社会経済的地位および地域発展性によるアメリカにおける全死因および薬物中毒を原因とした早期死亡率:2000年~2015年までの郡別死亡診断書データの解析 ~
出典: Lancet Public Health. 2019 Feb; 4(2): e97–e106.
著者: Meredith S Shiels, Amy Berrington de González, Ana F Best, Yingxi Chen, Pavel Chernyavskiy, Patricia Hartge, Sahar Q Khan, Eliseo J Pérez-Stable, Erik J Rodriquez, Susan Spillane, David A Thomas, Diana Withrow, and Neal D Freedman
<論文の要約>
【背景】
米国のいくつかの集団における早期死亡率の増加は、主に薬物中毒死の増加によって引き起こされてきたとされているが、人種、社会経済的地位、地域性、地理などの要因に着目した研究は行われていない。本研究では、米国に住む白人、黒人、ラテンアメリカ人について、2000年から2015年までの期間の全死因ならびに薬物中毒による早期死亡の傾向を調査した。

【方法】
2000年1月1日から2015年12月31日までの米国死亡率データを使用した。これらは、CDC (Centers for Disease Control and Prevention)とNCHS (National Center for Health Statistics)の死亡診断書から集められ、死因と地理情報が含まれている。2011年から2015年の国勢調査におけるACS (American Community Survey)から郡を同定した。郡ごとの失業者数、学士号取得人口の割合、収入の中央値、および地域発展度についてそれぞれ5分位を設定し、2000年から2003年と2012年から2015年の期間について、郡ごとに人種別で全死因および薬物中毒を原因とする早期(25~64歳)死亡率を推定した。また、郡ごとの特徴によって2000-2015年の期間における死亡率の年間変化率を推定した。

【結果】
早期死亡率は、2000-03年から2012-15年までに多くの郡において黒人およびラテンアメリカ人で減少したが、白人では増加した。薬物中毒による死亡率は全国で増加した。2000年から2015年の期間で増加は顕著であり、25〜64歳の白人(年間変化率4.56%~11.51%)、50〜64歳の黒人(年間変化率2.27%~9.46%)、25〜49歳のラテンアメリカ人女性(年間変化率2.43%~5.01%)、および50〜64歳のラテンアメリカ人男性(年間変化率2.42%~5.96%)において、社会経済的地位、地域発展度によらず起こった。薬物中毒による死亡率は社会経済的地位が最低かつ地域発展度の低い群で急速に増加したが、2012年から2015年の期間においては、人口の大きさが反映され、死亡の大部分は地域発展度の高い群で発生した。(人口25万人以上の大都市で121395人[76%]に対し、地域発展度が最低の群においては2175人 [1%]であった。)

【結論】
早期死亡率は、米国の黒人とラテンアメリカ人において減少し、白人において増加した(特にあまり裕福でない田舎の郡では顕著であった)。薬物中毒の死亡率の増加は、田舎の貧しい白人に限られたものではなく、人種、社会経済的地位、地域発展度に関係なく、米国全体の地域社会において急激な増加が見られてきた。この公衆衛生的緊急事態に対処するには、広範囲にわたる公衆衛生的介入が必要である。



<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■米国の死亡診断書データという巨大なデータベースをもとに研究が行われたことで、地域の社会経済的格差や人種による早期死亡率に対する傾向がかなり明確に示されているのは、本研究の大きな強みである。
    ■研究の限界でも述べられていた「死亡数10人以下の郡は研究対象から除外する」という制約は、日本の人口統計学的分析においても適応されている個人情報保護(個人が特定されないようにするため)による制約であることが予想され、本研究のような人口統計学的分析を行うにあたってはこの制約によるバイアスを考慮する必要がある。
    ■薬物中毒による早期死亡率の増加は黒人、ラテンアメリカ人よりも白人で顕著であるという本研究結果は、白人で特に増加傾向にある理由や背景について今後詳しく調査する必要性を強く示唆している。
    ■Discussionにて薬物中毒死の原因となる薬物の傾向が民族によって異なっている可能性が示されており、薬物中毒死への公衆衛生的介入を考えるにあたって、使用薬物の種類と民族との関係を含めたさらなる研究が必要であろう。


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