PAGE TOP

国立大学法人

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
Division of Medicine, Graduate School Department of Interdisciplinary Research,
University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2020.1.22

2020年1月22日    担当:松岡

Health effects of dietary risks in 195 countries, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017
~ 195カ国、1990-2017年における食事リスクの健康への影響:Global Burden of Disease Study 2017による系統的解析 ~
出典: Lancet 2019; 393:1958-72
著者: GBD 2017 Diet Collaborators
<論文の要約>
【背景】
不適切な食生活は非伝染性の疾病(NCD)の重要なリスク因子であるが、その影響について、系統的解析は実施されていない。本研究では、195カ国にまたがり、主要な食品および栄養素摂取を評価し、不適切な食生活がNCD由来の死亡および疾病発症へどのような影響を与えるかを定量化することを目的とした。

【方法】
リスク評価の比較のため、25歳以上の成人の間で、食事のリスク因子毎の疾病(人口寄与割合ともいう)の負荷の割合を試算した。本解析における主要な供与データは、食事因子毎の摂取量、食事因子が疾病発症に与える効果の大きさ、死亡率減少に関わる摂取量のデータである。その後、それぞれの食生活による疾病アウトカムが死亡およびDALY(障害調整生命年)に与える影響を、疾病ごとに算出した。

【結果】
2017年1100万人 [95%不確定区間[UI] 10-12 million]の死亡、2億5,500万年 [95%UI 234:274 million]のDALYが食事リスク因子によるものだった。塩分の過剰摂取(300万人 [1-5  million]の死亡、7000万年 [34-118 million]のDALY)、全粒穀物摂取量の不足(300万人 [2-4 million]の死亡、8200万年 [59-109 million]のDALY)、そして果物摂取量の不足(200万人 [1-4 million]の死亡、6500万年 [41-92 million]のDALY)は、世界中および多くの国で、死亡およびDALYの主な危険因子だった。食事のデータは様々な情報源が混ざっており、全ての国で利用できなかったため、推定値の統計的不確実性が増加した。

【考察】
本研究はNCDによる死亡および罹患率に対する不適切な食事が及ぼす影響を包括的に図示し、世界各国の食事を改善する必要性を強調している。この結果はエビデンスベースの食事介入による、健康への影響を年ごとに評価するためのプラットフォームを提供する。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■ 人間の食物摂取後の吸収率や栄養素などへの感受性は人種や性、様々な背景要因によって異なると考えられる。よって、本研究で示されている塩分や他の食物等の適切な摂取量は、今回の研究で用いた異なるコホート間では違いがあると考えられ、本来はコホート毎に適切な摂取量を設定すべきであるが、なかなか難しいことと思われる。しかし、世界の状況を見て比較している本研究はこれまでにない貴重な研究であり、今後の研究の基盤となる結果であることから、様々なバイアスを考慮しても、価値は大きいと考えられる。
    ■人口の上位20カ国の中では、日本の10万人当たりの年齢調整した全ての死亡およびDALY 、心血管疾患、二型糖尿病による死亡およびDALYが最も低く、食と健康において、日本は恵まれている。一方で、全世界の結果と比較すると、世界的には全粒穀物の不足がDALYへ最も影響しているが、日本では食塩の過剰摂取が全粒穀物の不足よりも大きな問題であることが示された。これは、日本食では味噌や醤油などを基礎とした味付けが一般的であり、漬物や塩蔵の食品も摂取することが多いためと考えられる。昨今、世界で日本食が健康食として注目されているが、食塩摂取量が高いという日本の食文化の課題が本研究結果から認められた。
    ■社会経済的因子(SDI)で層別解析した結果では、食事による全ての死亡、循環器疾患、悪性新生物による死亡は中間層で高く、二型糖尿病による死亡は高所得層ほど高い傾向があった。しかし、食事要因別の死亡およびDALYとSDIの関係を示したグラフでは、同様の傾向がみられなかった。このことについて著者らは特に考察はしていなかったが、その要因としては、社会経済的な要因だけでなく、背景となる民族や食文化等の違いが影響していると考えられる。


前のページに戻る