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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2021.6.9

2021年6月9日    担当:須田

Association of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks With Health Outcomes Among Japanese Men
出典: JAMA Internal Medicine December 2020 Volume 180, Number 12 (
著者: Shingo Fukuma, MD, PhD; Toshiaki Iizuka, PhD; Tatsuyoshi Ikenoue,MD, PhD; Yusuke Tsugawa,MD, PhD
<論文の要約>
【背景】
肥満と心血管リスクは、公衆衛生上の大きな問題となっている。しかし、肥満や心血管危険因子に対する集団レベルの生活習慣介入が集団の健康アウトカムの改善につながるかどうかについては、エビデンスが限られている。

【目的】
本研究では、日本における保健指導の介入と健康アウトカムとの関連を調査する。

【デザイン/セッティング】
2013年4月から2018年3月までに日本の国民健康保険の健診プログラム(特定健康診査)に参加した40歳から74歳の男性を対象に、回帰不連続デザインを用いた。スクリーニングから1~4年後の肥満状態(体重、体格指数、腹囲)および心血管危険因子(血圧、ヘモグロビンA1c値、低比重リポ蛋白コレステロール値)の変化をメインアウトカムとした。  保健指導介入への割り付け:毎年行われる特定健康診査において、1つ以上の心血管危険因子を持つ腹囲85cm以上の人に対して、特定保健指導(健康的なライフスタイルに関するカウンセリングと適切な臨床的フォローアップ)を行う。

【参加者】
腹囲85cm以上で、1つ以上の心血管危険因子を持つ人を40歳から74歳の男性を対象とした

【主要評価項目】
スクリーニングから1~4年後の肥満状態(体重、体格指数、腹囲)および心血管危険因子(血圧、ヘモグロビンA1c値、低比重リポ蛋白コレステロール値)の変化

【結果】
男性74 693人(平均[SD]年齢:52.1 [7.8]歳,平均[SD]ベースラインウエスト86.3 [9.0]cm)のうち、1年のスクリーニングで保健指導により関連した項目は、体重の減少と(調整後の差、-0.29kg;95%CI、-0.50~-0.08 P = 0.005)、BMI(-0.10;95%CI、-0.17~-0.03;P = 0.008)、ウエスト−0.34cm;95%CI、-0.59~-0.04、P = 0.02)であった。観察された保健指導の関連性は、時間の経過とともに弱まり、3~4年目には有意ではなくなった。保健指導による介入が、1~4年目の参加者の収縮期血圧、拡張期血圧、ヘモグロビンA1c値、LDLコレステロール値の変化と関連するというエビデンスは認められなかった。
【結論】
日本の労働年齢層の男性において、健診プログラム(特定健康診査)による介入は、臨床的に意味のある体重減少やその他の心血管危険因子の減少とは関連しなかった。肥満や心血管危険因子の改善に効果的な生活習慣介入デザインを理解するには、さらなる研究が必要である。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■この研究は、腹囲85㎝近辺(±6㎝)の集団を対象としており、比較的健康状態が良い集団についての特定保健指導の介入効果のみを検証している。そのため、肥満度の高い(健康状態の悪い)集団については、介入結果が変わる可能性も考えられる。
    ■保健指導の質を担保するシステムは現状存在しないため、実際に行われた保健指導の内容はそれぞれの対象者によって大きく異なる可能性がある。そのため、保健指導の割り当てや介入効果の平均だけでなく、分布についても確認する必要があり、質の高い保健指導を行うことが出来ている集団は介入により異なる効果を示すかもしれない。
    ■先行研究では保健指導の介入群と非介入群の健康意識の差を解析で考慮することが出来なかったが、この研究は回帰不連続デザインを用いることで疑似実験(疑似ランダム化比較試験)を行い、その差を最大限取り除くアプローチを行っている。そのため、本研究結果は先行研究より信頼性が高く、これにより日本の法律に基づいた保健指導の基準について見直しが行われる可能性がある。


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