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山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2021.8.4

2021年8月4日    担当:日吉

Caregiver Well-being, and Health Care Use The Care Ecosystem Randomized Clinical Trial
~ 電話やインターネットを利用した認知症ケアの連携が生活の質、介護者のウェルビ ーイング、ヘルスケア利用に与える効果 ケアエコシステム無作為化臨床試験~
出典: JAMA Intern Med. 2019;179(12):1658-1667. doi:10.1001/jamainternmed.2019.4101
著者: Katherine L. Possin, PhD; Jennifer J. Merrilees, RN, PhD; Sarah Dulaney, RN, MS, CNS; et al
<論文の要約>
【重要性】
果的な認知症ケアマネジメントプログラムを採用している医療システムは少ない。ケアエコシステムとは、広範囲の地理的地域に集中した拠点から介護者や認知症患者(PWD:Persons With Dementia)にケアを提供するモデルであり、医療システムとは無関係に認知症患者にケアを提供する。

【目的】
ケアエコシステムが、通常のケアで達成されたアウトカム以上に、PWD、その介護者、支払者にとって重要なアウトカムを改善するために有効であるかどうかを判断する。

【デザイン、設定、参加者】
PWD とその介護者を対象に、実用的なデザインの単盲検無作為化臨床試験を実施した。各PWD とその介護者の一対は、2015 年3 月20 日から2017 年2 月28 日までの12 ヵ月間登録された。データは2018 年3 月 5 日まで収集した。研究介入と評価は、カリフォルニア州サンフランシスコとネブラスカ州オマハの臨床研究チームによって、電話とインターネットを介して実施された。カリフォルニア州、アイオワ州、ネブラスカ州の紹介者またはボランティアのPWD と介護者一対2585 組のうち、780 組が以下の条件を満たした。資格基準を満たし、登録された。合計512 組のPWDと介護者の一組が、ケアエコシステムを介してケアを受けるように無作為に割り付けられ、268 組が通常ケアを受けるように割り付けられた。対象となったすべてのPWD は認知症の診断を受けており、メディケアまたはメディケイドに登録されているか、または登録する資格があり、英語、スペイン語、広東語を話していた。解析は治療意図分析であった。

【介入】
電話による共同認知症ケアは、訓練を受けたケアチームのナビゲーターが認知症専門家(高度実践看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師)のチームと教育、支援、ケア調整を行った。

【主な成果と測定】
主要評価項目:アルツハイマー病におけるQOL(Quality of Life):PWD のウェルビ ーイング(身体的健康、エネルギーレベル、気分、生活状況、記憶、人間関係、経済状況など)の13 項目について、介護者が4 点満点で評価したもの(不良から優良まで)。 副次的評価項目:PWD の救急外来、入院、救急車の利用頻度、介護者のうつ病(9 項目の患者健康質問票のスコア:スコアが高いほど重度のうつ病であることを示す)、介護者の負担(12 項目のザリット負担面接のスコア:スコアが高いほど介護者の負担は重度であることを示す)。

【結果】
80 人のPWD(56.3%:女性;平均[SD]年齢 78.1[9.9]歳)と 780 人の介護者(70.9%:女性;平均[SD]年齢 64.7[12.0]歳)は、カリフォルニア州(n = 452)、ネブラスカ州(n = 284)、またはアイオワ州(n = 44)に居住していた。780 組のうち655 組が12 ヵ月後も活動しており、571 組が12 ヵ月調査を完了した。通常のケアと比較して、ケアエコシステムは PWD の生活の質を改善し(B、0.53;95%CI、0.25~1.30;P = 0.04)、救急外来受診の減少(B,-0.14;95%CI,-0.29~-0.01;P = 0.04)を示した。介護者のうつ病の減少(B, -1.14;95%CI,-2.15~-0.13;P = 0.03)と介護者の負担(B,-1.90;95%CI,-3.89~-0.08;P = 0.046)がみられた。

【結論と関連性】
知症に対する効果的なケアマネジメントは、集中的な拠点から提供され、通常のケアを補完し、認知症の増大する社会的・経済的負担を軽減することができる。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■選択バイアス(Selection bias)の存在について:研究の限界でも述べられていたが、低い報酬にもかかわらず長期の研究プログラムに参加している点から、本研究の対象集団はお人好しの性格を持つ参加者で構成されているかもしれない。そのような集団は、サービスを受けたから状態が良くなっていると評価し易く、これらが本研究における結果の過大評価につながっている可能性がある。本研究では参加辞退者、連絡が取れないとして不参加となった方も多く、本研究に参加していないこのような集団にこそ、サービスが必要な場合が多いと考える。これらの点から、本研究への非参加の集団の特徴にも意識を向ける必要があり、また今後のプログラム実装にあたっては、このような非参加者の反応や効果について検証する必要があるだろう。
    ■ケアチームナビゲーター(CTN)との相性:認知症患者と介護者にはCTN が対応すると書かれているが、全期間を通して同一の CTN が対応するのかどうかは本文から読み取れなかった。特に本研究で導入されたサービスの満足度は対応した CTN との相性の問題が大きく関わっている可能性があり、これがサービスに対する不満やサービスを続けられない原因になっている可能性がある。今後の実装にあたっては、担当CTN を変更できるという仕組みが必要となるであろう。(参考:エコケアシステムでは、 CTN の受け持ち症例数は調整(50~80 症例)され、CTN 自身が個別のケアプランを作成するため、本研究においても担当するCTN は一人の人物に一貫して関わっていたと考えられる。)
    ■オンラインでの介入に対する評価:本研究ではインターネットを介した介護者に対するケアとそれらについての評価を行っている。現在、企業における在宅勤務やオンライン会議の促進により、社会においてオンライン介入に関する障壁は低くなっており、今後様々な健康問題を抱える患者が自宅に居ながらにして受けられるケアの重要性が高まるため、本研究におけるオンライン介入は今後そのようなケアを検討する上での大きな参考になると考えられる。一方で、こういったオンラインを用いたケアや介入をどのように評価していくかという点についても、本研究は研究デザインやプロトコルの面で参考になるであろう。


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