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社会医学講座 | 山梨大学医学部

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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2021.11.10

2021年11月10日    担当:島村

Air pollution and IgE sensitization in 4 European birth cohorts—the MeDALL project
~ ヨーロッパの4つの出生コホートにおける大気汚染とIgE感作— MeDALLプロジェクト ~
出典: J Allergy Clin Immunol 2021; 147: 713 -22
著者: Erik Melen, MD, PhD, Marie Standl, PhD, Ulrike Gehring, PhD, Hicran Altug, PhD, Josep Maria Anto, MD, PhD, Dietrich Berdel, MD, Anna Bergstr€om, PhD, Jean Bousquet, MD, PhD, Joachim Heinrich, PhD, Gerard H. Koppelman, MD, PhD, Inger Kull, PhD, Christian Lupinek, MD, Iana Markevych, PhD, Tamara Schikowski, PhD, Elisabeth Thiering, PhD, Rudolf Valenta, MD, Marianne van Hage, MD, PhD, Andrea von Berg, MD, Judith M. Vonk, PhD, Magnus Wickman, MD, PhD, Alet Wijga, PhD, and Olena Gruzieva, MD, PhD
<論文の要約>

【背景】
大気汚染への長期曝露がアレルギー感作に影響を与えるかどうかは以前から議論されている。

【目的】
出生時およびその後の検体採取時の大気汚染への曝露と、16歳までの小児における一般的な食品および吸入アレルゲン、または特定のアレルゲンに対するIgE感作との関連を調査する。

【方法】
4つのヨーロッパの出生コホートから合計6163人の小児がMeDALL(アレルギー発症メカニズム)プロジェクトに参加した。以下の指標はLand Use Regression(LUR)モデルを使用して推定した。
・空気力学的直径が2.5mm未満(PM2.5)、10mm未満(PM10)、および2.5~10mm(PM2.5-10)の粒子状物質の屋外レベル
・PM2.5吸光度(PM2.5フィルターの黒さ(汚れ具合)の測定)
・窒素酸化物レベル
4~6歳(n=5989)、8~10歳(n=6603)、および15~16歳(n=5825)で採取された血液サンプルをImmunoCAP法によってアレルゲン抽出物に対するIgE感作を分析した。さらに、MeDALLマイクロアレイチップ(n=1021)を使用して、132個のアレルゲン分子に対するIgEを測定した。

【結果】
大気汚染は、16歳までの(1つ以上の)一般的なアレルゲン抽出物に対するIgE感作と一貫した関連はなかった。ただしアレルゲンごとの分析では、カバノキに対する感作リスクの増加が示唆された(NO2曝露の10mg/m3増加あたりのオッズ比[OR]1.12[95%信頼区間1.01-1.25])。マイクロアレイデータのサブ集団では、チモシー(オオアワガエリ)の主要抗原Phleum pratense1(Phlp1)および猫アレルゲンFelis domesticus1(Feld1)に対するIgEが3.5 ISU-E以上の小児と出生時のPM2.5曝露の間に関連があった(曝露の5mg/m3増加あたりそれぞれ、チモシーOR 3.33[95%信頼区間1.40-7.94]および猫OR 4.98[95%信頼区間1.59-15.60])。

【結論】
大気汚染への曝露は、アレルギー感作の全体的なリスクを高めないようである。ただし、カバノキ、草花粉Phlp1および猫Feld1アレルゲン分子に対する感作は、特定の汚染物質に関連している可能性がある。

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■研究対象集団に関して、Figure2のフォレストプロットからはBAMSEコホートが他コホートとは異なる傾向を示しているため、研究間の異質性が高くなりメタアナリシスで有意な結果が出にくくなっていると推測された。これは、BAMSEコホートの行われたスウェーデンと、他のドイツ・オランダが地理的に離れていることで大気汚染物質濃度に差異があることが一因と推測された。
    ■大気汚染曝露を受けた年齢とバイオサンプリングのタイミングについて、それぞれ出生時・4-6歳・8-10歳・15-16歳のデータを使用して層別解析をすることによって、より詳細に大気汚染曝露の影響を分析できる可能性が考えられる。
    ■IgE値のカットオフの設定が> 0.35kUA/L(クラス1以上)と低く、偽陽性を拾いアウトカムが過大評価になる可能性がある。この問題について本研究では、より高いカットオフ値(≥ 0.70kUA/ Lおよび≥ 3.5kUA/ L)を設定し感度分析を行っており、結果に影響を与えなかったと説明されている。


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