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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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University of Yamanashi

ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2022.1.12

2022年1月12日    担当:河合

Physical inactivity is associated with a higher risk for severe COVID-19 outcomes: a study in
48440 adult patients
~運動不足はCOVID-19の重症化リスクと関連する:成人患者48,440人を対象とした研究~
出典: British Journal of Sport Medicine, 55: 1099-1105, 2021 doi:10.1136/bjsports-2021-104080
著者: Sallis R, Young DR, Tartof SY, Sallis JF, Sall J, Li Q, Smith GN, Cohen DA
<論文の要約>

【目的】
COVID-19患者の入院率、集中治療室(ICU)入室率、死亡率を、常に運動不足(inactive: 不活発)であった人、ある程度の身体活動をしていた人、常に身体活動ガイドラインを満たしていた人、の間で比較すること。

【方法】
2020年1月1日から2020年10月21日にCOVID-19と診断され、2018年3月19日から2020年3月18日に少なくとも3回の運動バイタルサイン測定を行った成人患者48,440例を選定した。各患者の自己申告による身体活動カテゴリー(常に運動不足=0〜10分/週、ある程度の身体活動=11〜149分/週、常にガイドラインを満たす=150分/週以上)と、COVID-19診断後の入院、ICU入室および死亡のリスクを関連づけた。多変量ロジスティック回帰を行い、人口学的背景と既知の危険因子をコントロールして、運動不足がCOVID-19の結果(転帰)と関連するかどうかを評価した。

【結果】
常に運動不足であったCOVID-19の患者は、常に身体活動ガイドラインを満たしていた患者よりも、COVID-19による入院(OR 2.26; 95%CI 1.81~2.83)、ICU入室(OR 1.73; 95%CI 1.18~2.55)、 死亡(OR 2.49; 95%CI 1.33~4.67)のリスクが高かった.また、常に運動不足であった患者は、ある程度の身体活動を行っていた患者よりも、COVID-19による入院(OR 1.20; 95%CI 1.10~1.32)、ICU入室(OR 1.10; 95%CI 0.93~1.29)、死亡(OR 1.32; 95%CI 1.09~1.60)のリスクが高かった。

【結論】
身体活動ガイドラインを常に満たすことは、感染した成人におけるCOVID-19の重症転帰のリスク低減と強く関連していた。身体活動を促進する取り組みを公衆衛生機関が優先的に行い、日常的な医療に取り入れることを推奨する.

<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■本研究の研究デザインは、COVID-19に感染した患者を対象として、彼らからアウトカムの発生前に取得した運動バイタルサインデータと曝露因子としてCOVID-19の重症度との関連の分析を行っていることから、後ろ向きのコホート研究ということができる。
    ■本研究の対象者は、事前に診療時の運動バイタルサインを測定していることから、対象期間内に診療を受けなかった健康な人は含まれていない。そのことから、対象者にバイアスがある可能性がある。
    ■研究の限界でも指摘されているように、身体活動とCOVID-19重症化の因果関係が本研究の結論と逆転している可能性も考えられる。つまり、重大な基礎疾患を持っている人は、日常生活の中で身体活動を行うことが少ないか、困難であるという可能性も考えられる。
    ■調整する因子の曝露とアウトカムとの関係によって、調整後の推定値の変化の方向が変わる。
    ■本研究では、医療保険システムが取得したデータを用いて分析が行われている。COVID-19パンデミックのような社会的に大きな影響のある出来事に対して、研究倫理的な問題をクリアした分析可能なデータを迅速に使用できる体制を整えておくことは重要である。


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