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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2022.7.27

2022年7月27日    担当:新藤

Comparative Safety of BNT162b2 and mRNA-1273 Vaccines in a Nationwide Cohort of US Veterans
出典: JAMA Intern Med. 2022;182(7):739-746.
著者: Barbra A. Dickerman, PhD; Arin L. Madenci, MD, PhD; Hanna Gerlovin, PhD; Katherine E. Kurgansky, MPH;
Jessica K. Wise, MPH; Michael J. Figueroa Muñiz, BSc; Brian R. Ferolito, MSc; David R. Gagnon, MD, PhD, MPH;
J. Michael Gaziano, MD, MPH; Kelly Cho, PhD, MPH; Juan P. Casas, MD, PhD; Miguel A. Hernán, MD, DrPH
<論文の要約>
【Importance】
先行のRCTではBNT162b2(Pfizer-BioNTech)およびmRNA-1273(Moderna Inc)ワクチン接種者にとって有害事象のリスクは低いことがわかっているが、より長い観察期間とより大きく多様な集団における、より広範囲の潜在的な有害事象に対する安全性の直接比較は十分でない。

【Objective】
米国最大の医療統合システムである米国退役軍人省のデータベースにあるBNT162b2およびmRNA-1273ワクチンの有害事象のリスクの観点から安全性を比較する。

【Design, setting, and participants】
コホート研究で、2021年1月4日から9月20日の期間にBNT162b2またはmRNA-1273ワクチンの初回投与を受けた米国の退役軍人の電磁的記録が使用された。各ワクチン接種者は、危険因子に応じて1:1でマッチされた。

【Exposure】
BNT162b2ワクチン(21日後に2回目接種)、またはmRNA-1273ワクチン(28日後に2回目接種)のいずれかの接種。

【Main outcome and measures】
潜在的な有害事象が大規模に評価された。パネルには神経学的イベント、血液学的イベント、脳血管障害(出血性+虚血性)、心筋梗塞、その他の血栓塞栓性イベント、心筋炎または心膜炎、不整脈、腎障害、虫垂炎、自己免疫イベント、帯状疱疹または単純性ヘルペス、関節炎または関節症、および肺炎が含まれた。カプランマイヤー推定量を使用して、38週間にわたるリスクを推定した。

【Results】
マッチングされた2つのワクチン群に含まれた433672人のうち、年齢の中央値は69歳(四分位範囲60〜74歳)、93%が男性、20%が黒人だった。38週間の有害事象の推定リスクは、両者とも投与後早期は概して低かった。 mRNA-1273群と比較して、BNT162b2群では、虚血性脳血管障害が10000人あたり10.9イベント(95%CI、1.9-17.4イベント)、心筋梗塞が14.8イベント(95%CI、7.9-21.8)多かった。 他の血栓塞栓性イベントで11.3イベント(95%CI、3.4-17.7)、腎障害で17.1イベント(95%CI、8.8-30.2)多かった。推定値は、年齢(<40、40-69、および≥70歳)と人種(黒、白)で定義されたサブグループ間でほぼ同様であったが、高齢者と白人のサブグループでは虚血性脳卒中のリスク差が大きく、また高齢者で腎障害、および黒人で他の血栓塞栓性イベントのリスク差が大きかった。初回投与から42日以内は 両群の差は小さく、初回投与後14日以内ではほとんど差が見られなかった。

【Conclusions and relevance】
このコホート研究結果ではBNT162b2またはmRNA-1273ワクチンの初回投与から14日以内の有害事象のリスクにはほとんど差がなく、42日以内にわずかな差があることを示唆する。有害事象の38週間のリスクは両群とも低かったが、mRNA-1273ワクチン接種者のリスクはBNT162b2ワクチンより低かった。一次解析はCOVID-19罹患とは無関係な安全性イベントを検出するように設計されたが、今回の結果は、COVID-19後遺症の予防効果がBNT162b2ワクチンの方が低いことで一部説明されうることを否定できない。今回の結果は、将来のワクチン接種キャンペーンの意思決定に役立つ可能性がある。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■観察期間に3回目接種を行った人がいた場合は結果の信頼性が低下するのでは? 本文には記載がないが、アメリカでは3回目接種は2回目接種の8か月後以降になるため観察期間(38週間)に3回目接種を受けた人はいなかったと推測する
    ■ブートストラップ法の反復回数(500回)の根拠はあるのか? 必要回数を求める計算式など理論的根拠を見つけることはできなかった。一般的に500-2000回ほど反復するのが一般的のようだが、サンプルサイズが大きいと反復回数が少なくても推定値の信頼性が担保されるようである。
    ■本文に、リスク差はベースラインの患者背景により結果に相違が出やすいとの記載があるにも関わらずリスク差で表現している理由は? 「Aという有害事象の頻度は、2つのワクチン間で1万人当たり○○人異なる」という表現は臨床家や施策決定者が直感的に理解・想像しやすいという点で好まれたのではないか。
    ■mRNAワクチンは心筋梗塞などの重大な疾患のリスクを上げるのか。未接種者との比較はしているのか。リスクを上げるとは言われていないだろう。未接種者との比較:N Engl J Med. 2021;385:1078(イスラエルで接種6週後までに心筋梗塞や肺塞栓などの超過はなかった)


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