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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2022.7.27

2022年8月31日    担当:島村

Polyvalent Mechanical Bacterial Lysate Administration Improves the Clinical Course of Grass Pollen-Induced Allergic Rhinitis in Children: A Randomized Controlled Trial
~多価機械的細菌溶解物の投与は、小児における草花粉誘発性アレルギー性鼻炎の臨床経過を改善する:ランダム化比較試験~
出典: J Allergy Clin Immunol Pract 2021;9:453-62
著者: Kamil Janeczek, MD, PhD , Andrzej Emeryk, MD, PhD, DSc , Marta Rachel, MD, PhD , Dariusz Duma, PharmD, PhD , Łukasz Zimmer, PharmD, PhD , and Ewa Poleszak, PharmD, PhD, DSc Lublin and Rzeszów, Poland
<論文の要約>

【背景】
近年、細菌溶解物の免疫調節の可能性が注目されており、アレルギー疾患の予防と治療に役立つ可能性が指摘されている。
【目的】
草花粉症誘発性アレルギー性鼻炎の小児における多価機械的細菌溶解物(PMBL)の臨床的有効性を調査する。

【方法】
季節性アレルギー性鼻炎の70人の小児を、PMBLおよびプラセボグループにランダムに割りつけた。 季節性アレルギー性鼻炎の重症度は、総鼻症状スコア、総眼症状スコア、および視覚的アナログ尺度(VAS)によって評価した。3回の受診で、鼻腔吸気流量のピーク測定、鼻腔塗抹標本(好酸球測定)・鼻腔洗浄液(チモシーグラス花粉アレルゲンに対するアレルゲン特異的IgE)をサンプリングした。

【結果】
プラセボ群と比較してPMBL群では、総鼻症状スコア(P=.001)、総眼症状スコア(P=.04)、および鼻症状と眼症状のVAS(それぞれ、P<.001およびP<.001)の統計的に有意な減少)および鼻吸気流量ピークの増加(P=.04)が認められた。草花粉シーズン中、鼻腔塗抹標本中の好酸球数の増加とその後の減少が両群で観察された。ただし、好酸球の数はプラセボ群と比較してPMBL群で有意に少なかった。アレルゲン特異的IgE濃度はPMBL群では有意な変化は観察されなかったが、プラセボ群では統計的に有意な増加が観察された。
【結論】
草花粉シーズン中のPMBLの舌下投与は、草花粉アレルゲンに感作された小児たちの季節性アレルギー性鼻炎の症状を緩和するのに大きな効果をもたらす。PMBLはおそらく粘膜免疫に影響を及ぼし、TH2細胞の応答を弱めるものと考えられる。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■PMBL群、プラセボ群それぞれで標準治療である内服薬・点鼻薬の併用が可能になっていた。現実的な環境や条件下におけるPMBLの有効性を調べる研究であるため(Effectiveness)、併用自体は問題ないが、両群で使用率や使用内容に結果であるPMBLの有効性を左右する有意差が出ていないか等の説明が必要であると考えられた。
    ■それぞれのグラフに統計法の記述をし、参照しやすくする工夫が望ましい。
    ■主要アウトカムとして鼻症状・眼症状を設定しているが、VASの評価は測定点ごとではなくベースからの変化量を両群で比較する方が、より有効性の評価に繋がると考えられる。また、測定点ごとの比較であれば本来多重比較のため補正を行う必要がなり、有意差を出すにはよりサンプルサイズを大きく設定しなければならないことが予想される。
    ■季節性アレルギー性鼻炎が小児に及ぼす影響の背景を考え、それぞれの症状の評価だけではなくQOLの改善の有無に関する評価などに踏み込んでも、より興味深い結果が得られるのではないかと考えられた。


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