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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2022.10.19

2022年10月19日    担当:河合

Depressive symptoms and objectively measured physical activity and sedentary behaviour
throughout adolescence: a prospective cohort study
思春期における抑うつ症状と客観的に測定された身体活動および座位行動:前向きコホート研究
出典: Lancet Psychiatry, 7:262-271, 2020. https://doi.org/10.1016/S2215-0366(20)30034-1
著者: Kandola A, Lewis G, Osborn DPJ, Stubbs B, Hayes JF
<論文の要約>

【背景・目的】
思春期におけるうつ病の有病率を下げるには,修正可能な危険因子を特定することが重要である.自己報告によるデータでは,身体活動および座位行動が思春期の抑うつ症状と関連している可能性を示唆している.本研究では,思春期における抑うつ症状と客観的に測定された身体活動および座位行動との関連性を調べた.
【方法】
Avon Longitudinal Study of Parents and Children(ALSPAC)研究に参加するよう母親が招待された人口ベースのコホートから,17.8歳(以下,18歳と報告)の時点で少なくとも1回の加速度センサー記録とClinical Interview Schedule-Revised(CIS-R)抑うつ尺度得点の記録を持つ参加者を抽出した.12歳,14歳,16歳頃に,座位行動と身体活動(軽度または中等度から強度な身体活動)に費やした時間を加速度センサーで測定した.身体活動量は,加速度センサーの生データを60秒ごとに平均化し,1分間あたりのカウント数(CPM)として記録した.身体活動および座位行動の変数と18歳時点のCIS-R得点との関連を,回帰分析およびグループベースのトラジェクトリーモデルで分析した.

【得られた知見】
ALSPAC研究に登録された14,901人の青少年のうち,4,257人が18歳の時点のCIS-R得点の記録を有していた.縦断的分析では,12歳時2,486人,14歳時1,938人,16歳時1,220人が分析対象となった.フォローアップ期間は6年であった.総身体活動量は12歳から16歳にかけて減少し,その原因は軽度の活動時間の減少(12歳で平均325.66[SD 58.09]分/日から16歳で244.94[55.08]分/日)と,座位行動の増加(430.99[65.80]分/日から523.02[65.25]分/日)であった.18歳時のCIS-R得点は,座位行動が1日あたり60分増えるごとに,12歳時(発生率比[IRR]1.111[95%CI 1.051-1.176]),14歳時(1.080[1.012-1.152]),16歳時(1.107[1.015-1.208])のそれぞれで増加した.また,18歳時のCIS-R得点は,軽度な身体活動が1日あたり60分増えるごとに, 12歳時(0.904[0.850-0.961]),14歳時(0.922[0.857-0.992]),16歳時(0.889[0.809-0.974])のそれぞれで低下した.12~16歳でのグループベースのトラジェクトリーモデリングにより,座位行動と身体活動量に関する3つの潜在的なサブグループが同定された.座位行動が持続的に多い人(IRR 1.282[95%CI 1.061-1.548])および持続的に平均的な人(1.249[1.078-1.446])のCIS-R得点は,座位行動が持続的に少ない人と比べて高く,軽度な身体活動レベルが持続的に高い人(0.804[0.652-0.990])は持続的に低い人と比べてCIS-R得点が低めであった.抑うつ症状は,12歳時の中等度から強度な身体活動(15分/日ずつ増加ごと)(0.910[0.857-0.966]),12歳(0.941 [0.910-0.972])および14歳(0.965 [0.932-0.999])における総身体活動量(100 CPM増加ごと)と負の関連があった.

【解釈】
思春期を通じて座位行動が軽度な身体活動に取って代わり,18歳時の抑うつ症状の大きなリスクと関連する.思春期に軽度な身体活動を増やし,座位行動を減らすことは,うつ病の有病率を減らすことを目的とした公衆衛生上の介入の重要なターゲットとなり得る.


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■本研究はベテラン長距離レクリエーションランナーの足・足関節機能の改善に焦点を当てた、特定のフットトレーニング予防プロトコルに関連するRRIを評価した最初の研究である。
    ■加速度センサーを用いて身体活動量を測定する場合,水泳など水中での身体活動量を測ることができないので,身体活動量を過小評価してしまうという課題がある.とくに,思春期の子どもたちを対象とする場合は注意が必要である.
    ■多くの研究対象者を対象として客観的な身体活動量を測定しようとする場合,大量の機器を揃えることは難しい,その場合,一つの機器を時期をずらして複数の対象者で使用することになり,本文中にもあったように季節性のバイアスの発生やコホート全体に対するn数が小さくなる可能性がある.
    ■本研究で示唆された,立って授業を受けたり,絵画や楽器の演奏で軽度な身体活動量を確保するといったアプローチは,今後日本でも注目されていく可能性がある.


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