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社会医学講座 | 山梨大学医学部

Department of Health Sciences,Basic Science for Clinical Medicine,
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ジャーナルクラブ通信バックナンバー

トップページ ジャーナルクラブ通信バックナンバー検索 2023.1.11

2023年1月11日    担当:齊藤

Prenatal work stress is associated with prenatal and postnatal depression and anxiety: Findings
from the Norwegian Mother, Father and Child Cohort Study
産前の仕事のストレスと出産前後のうつ・不安との関係:the Norwegian Mother, Father and Child Cohort
Study (MoBa)から
出典: Journal of Affective Disorders 298 (2022 Feb 1) 548–554 DOI: 10.1016/j.jad.2021.11.024
著者: Zahra M. Clayborne, Ian Colman, Mila Kingsbury, Fartein Ask Torvik, Kristin Gustavson, Wendy Nilsen
<論文の要約>

【背景】
近年の研究では、職場でのストレス経験が周産期のメンタルヘルスに有害な影響を与える可能性があり、産後うつの強いリスクであると示されている。しかしながら、周産期におけるこれらの関連を調べた縦断研究はわずかである。本研究の目的は、産前の仕事のストレスと後続のうつ・不安との関連を調べることであった。

【方法】
本研究はthe Norwegian Mother, Father and Child Cohort Study (MoBa)に基づいており、1999年から2008年の間にリクルートされた77999人の働く女性を対象とした。曝露変数は妊娠17週時点での産前の仕事のストレスとし、自律性・仕事での関係性・仕事上の楽しみといった内容の8項目スケール検討因子を用いた。アウトカムは妊娠30週時点と産後6か月時点でのうつ・不安とし、症状チェックリスト-8を用いた。解析は未調整および調整済みロジスティック回帰分析で構成されている。

【結果】
共変量調整後、産前の仕事のストレスは妊娠30週時点(OR = 1.33, 95% CI: 1.19–1.49)、産後6か月時点(OR = 1.44, 95% CI: 1.28–1.61)ともにうつ・不安と関連があった。追加の仕事に関連する変数や産休による調整後も、ほとんどの関連性が残った。

【限界】
仕事のストレスは妊娠中に一度しか計測しておらず、その為妊娠時期による関連性の変動については調べられなかった。本研究は社会経済的地位の高いサンプルについての報告であり、他の集団に一般化できない可能性がある。

【結論】
妊娠中、仕事のストレスに対処する女性は、後によりうつ・不安となりやすい。本研究は、妊娠中の母親や新米ママのメンタルヘルスをサポートするための職場改善の方略の開発に活かすことができる。


<ジャーナルクラブでのディスカッション>
    ■本研究は「妊娠中に仕事をしていた母親」に限定した研究であったが、「仕事をしている母親と仕事をしていない母親との比較」についても、先行研究などを調べてみるとより理解が深まると思った。また、可能であれば本研究対象者にも仕事をしていない母親を含み、その比較の結果が異なるのか知りたいと思った。
    ■共変量として用いられている「世帯収入」「母親の収入の必要性」「予期せぬ出費や生活費への対応力」といった変数は、多重共線性の可能性が考えられる。
    ■本研究の「仕事のストレス」には、職場での人間関係に関する検討がなかった。一方で、日本の仕事のストレス尺度ではあまりみられない仕事での身体的なストレスについての検討が充実しており、違いを感じた。職場での人間関係も仕事をしていくうえでのストレスに大いに関係してくると考えられるため、人間関係に関する情報もあるとよかったのではないかと考えた。
    ■本研究は「妊娠中の仕事のストレスの影響が大きいと、その後の妊娠中・産後にうつ・不安になりやすい」という結論であったが、これはそもそも「妊娠中・産後にうつ・不安になりやすいような人は、仕事のストレスにも弱い」という解釈もできるのではないかと考えられる。


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