紹介

非常勤講師(前教授)・尾崎由基男

当講座開設当時からの研究者で、血液内科専門医。毎週金曜朝に開かれる抄読会での鋭い質問に備えるため、大学院生は毎回戦々恐々として準備をしている。また、語学堪能でThrombosis Research誌のアジア地区編集責任者でもある。研究者は自分の研究分野の疾患に罹患すると言われるが、最近は自転車に目覚め、DAHON、LOUIS GARNEAU等の自転車を複数所有、休日には約100kmもサイクリングする事があるなど健康管理は万全。体脂肪率は10%前後といわれ、メタボリックシンドロームとも無縁の存在。
2015年6月をもって当講座教授を退官されて、7月より医療法人康麗会 笛吹中央病院の病院長に就任されました。当講座の研究推進と医学生教育にこれからもご協力いただくため、現在非常勤講師として講座に所属していただいております。

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所属: 大学院総合研究部 医学学域 臨床医学系(臨床検査医学)
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    医学工学総合教育部 医科学専攻
    医学工学総合教育部 人間環境医工学専攻

学歴: 1971年 4月  東京大学教養学部入学
    1973年 4月  東京大学医学部医学科進学
    1977年 3月  東京大学医学部医学科卒業
    1987年12月  東京大学医学博士号取得

学位: 博士(医学)

職歴: 1977年 4月  東京大学医学部附属病院にて内科研修医  
    1979年 7月  東京大学医学部附属病院第一内科(医員)
    1980年 9月  東京大学医学部附属病院助手
    1985年 4月  丹羽免疫研究所
    1987年 1月  東京大学医学部附属病院医員
    1987年 4月  山梨医科大学医学部附属病院検査部助手
    1987年11月  山梨医科大学医学部附属病院検査部講師
    1991年 8月  山梨医科大学医学部臨床検査医学講座助教授
    1997年 4月  山梨医科大学教授(臨床検査医学・附属病院検査部部長併任)
    2002年 4月  山梨大学大学院医学工学総合研究部臨床検査医学講座教授(附属病院検査部部長併任)
    2015年 6月  山梨大学大学院医学工学総合研究部臨床検査医学講座教授退官
    2015年 7月  医療法人康麗会 笛吹中央病院 院長
          同  山梨大学大学院医学工学総合研究部臨床検査医学講座非常勤講師

当講座の研究紹介

臨床検査医学講座で行っている研究テーマをご紹介します。

1. 新規血小板活性化受容体CLEC-2とその生体内リガンド、ポドプラニン:

抗転移薬、抗血小板薬の新規ターゲット蛋白の可能性

我々は ロドサイチンと呼ばれる血小板活性化作用を持つ蛇毒蛋白が、これまでに報告された血小板膜上の受容体と異なるC-type lectin-like receptor 2 (CLEC-2)と結合することを見出した (Suzuki-Inoue et al. Blood. 2006; 107: 542-9)。 CLEC-2が血小板—巨核球に特異的に発現していること、強力な血小板活性化能を持つことを考え合わすと生体内で血栓止血に何らかの役割を果している可能性は高いと思われ、JSTの支援を受けて国際特許出願(国際出願番号PCT/JP2006/309066)をしている。 
細胞外基質蛋白の一種、ポドプラニンは、腎臓のポドサイト、肺胞上皮、リンパ管等に存在するが、いくつかの腫瘍細胞上にも発現し、血小板凝集を惹起して癌の転移を促進する。 最近我々はポドプラニンの血小板上受容体がCLEC-2であることを見出した(Suzuki-Inoue et al. J Biol Chem. 2007;282:25993-6001 米国特許仮出願中2007.4)。 現在我々は、CLEC-2/ポドプラニンの相互作用を抑制することにより癌転移を予防できないかどうか検討している。 また我々は、動脈硬化部位で見られる合成型血管平滑筋にポドプラニンが発現している結果を得た。CLEC-2とポドプラニンの相互作用がプラークの破綻等による動脈血栓症の発症の一因とも考えられ、これによる血小板活性化が 血栓症発症に関与するとの仮説を立てている。  この相互作用は病的な部位に限られるため、出血傾向などの副作用のない新たな創薬のターゲットとなる可能性がある。

2.ITP発症のメカニズムの解明:

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の発症機序は未だ不明な点が多いが、Helicobacter pylori(以下、HP)陽性ITP患者においてHP除菌療法により血小板数が回復することが示され、ITPとHPとの関連が注目されている。我々はHP由来毒素である VacA(vacuolating cytotoxin A)が血小板に結合し、活性化することを見いだした。VacA結合により活性化された血小板が凝集を起こす、また非自己と認識されて、脾臓や肝臓などの網内系臓器でマクロファージによる貪食され、血小板減少をきたすなどの機序が考えられる。 現在までにVacAの結合する血小板膜上の蛋白を同定しており、抗体やrecombinant 蛋白の合成などで確認中である。 (論文を準備中であり、この蛋白の名前は明記しません) 

3.抗血小板薬の薬効評価:

アスピリン抵抗性は 抗血小板薬であるアスピリンの内服にも関わらず、その効果が十分でなく心血管イベントを発症する現象である。このような現象はアスピリンだけでなく他の抗血小板薬においても存在が推定されており、種々の薬剤に対する抵抗性を薬剤投与前に知ることができれば、個々の患者ごとに適切な抗血小板薬を選択する根拠となるとともに、無効な薬剤の使用を減少させ、副作用の軽減や治療効果の向上が期待される(オーダーメイド治療)。抗血小板剤のモニタリング法は画一的なものを使うことは困難であり、薬剤毎に適した方法があると考えられる。当研究室は、そのためにモニタリング法の確立や標準化に向けた研究を行っており、特許になったものもあるが、現在もいくつか新法を開発中である。

4.アスピリン抵抗性の新規検査法の開発,糖尿病患者での血小板COX-1の糖化とアスピリン抵抗性の関連:

我々は「真の」アスピリン抵抗性を鑑別するため,アスピリンのターゲットである血小板COX-1のID50を直接測定する新規検査法を開発した.また,糖尿病はアスピリンの血栓症抑制効果が低いことがいくつかの臨床試験で報告されているが,当検査法を用いCOX-1の糖化と アスピリンによるCOX-1アセチル化の相関について検討するつもりである。 

5.血栓症の予防を目的とした「特定保健用食品」の開発:

企業との共同研究をきっかけとして、血栓症に関与する血小板や血液凝固に対する抑制作用を持つ食品をスクリーニングしてきた。その結果、キノコ類が抗血小板作用物質を含有していることを確認し、その作用が血小板表面のある受容体を特異的に阻害することを発見した。 現在、その物質の精製・分離・同定を行うとともに、動物実験により、体内での抗血小板作用ならびに抗血栓作用を確認しているところである。(特許申請のため、この受容体については明記しない。)この研究により、血栓症の予防を目的とした「特定保健用食品」の開発や、医薬品の開発に応用したいと考えている。

6.活性化プロテインC(APC)の抗血小板作用:

APCは,血管内皮細胞上のTMおよびEPCR存在下に,凝固因子Factor VaおよびVIIIaを不活化する凝固調節因子であるが,近年APCの血管内皮細胞への抗アポトーシス作用などが報告されてきている。 APCの血小板に対する作用に関しては,トロンビン産生抑制による間接的な作用以外は全く報告がないが、我々は予備実験においてAPCが血小板機能を抑制することを発見した。血小板はEPCRを持たないが,GP IbaはAPC結合能を持つためEPCRの代用となりうる。 APCは直接抗血小板作用を有している可能性が考えられ,その作用部位を特定できれば抗血小板ペプチド製剤を合成できる可能性があると期待される。

7.血管壁細胞外物質による血小板活性化メカニズムの解明:

心疾患、脳血管疾患などの動脈血栓症の一つの原因として、血管壁の障害により細胞外物質が血小板活性化を起こすことが推定されている。細胞外物質の中ではコラーゲンによる血小板活性化メカニズムが集中的に研究され、その機序が解明されつつある。一方、正常血管が傷害された場合、コラーゲンは深層に存在するため実際にはより表層にあるラミニン等のコラーゲン以外の細胞外物質が血小板活性化を起こすことが推定される。
血小板膜上にはラミニン受容体であるintegrin α6β1が存在する。 我々はラミニンに接着した血小板が血小板膜上のコラーゲン受容体であるGlycoprotein VI(GPVI)を介して活性化されることを発見した(Inoue et al., Blood 2006)。すなわち、血管内皮脱落後、血小板は露出したラミニンにintegrin α6β1を介して接着し、接着した血小板上のGPVIがラミニンと結合する事で活性化され、顆粒の放出や形態変化を来す。このラミニンへの血小板接着と活性化は、血管内皮の脱落という病的血管壁傷害のごく初期から見られる現象と考えられるため、ラミニンへの血小板接着と活性化の生理的役割を解明する本研究は、将来的に動脈血栓症予防治療薬の開発につながる可能性を秘めている。

State of the Art

2005年国際血栓止血学会に於いて、尾崎が教育講演をした内容です。血小板膜表面糖タンパクGPIbを介した細胞内信号伝達系に関与する信号分子の解析に関するアップデートを行いました。

Abstract for the ISTH 2005 State of the Art presentation
GPIb-related signal transduction

Yukio Ozaki

GPIb-IX-V is known to play an essential role in the initial phase of platelet-vessel wall interaction, leading to platelet activation. However, the signaling pathways related to GPIb-IX-V have not been fully elucidated.

The intracellular signals or secondary mediators reported first include thromboxane A2, protein kinase C, ADP, and Ca++ mobilization. Up to date, an accumulating body of evidence suggests that PLCγ2 activation, subsequent Ca++ release and oscillations constitute an essential signal transduction pathway related to GPIb-IX-V. Src family kinases are required for PLCγ2 activation, while FcRγ-chain/FcγRIIA may be dispensable for PLCγ2 activation. Although PI-3K serves to potentiate various signaling events culminating in αIIbβ3 activation, PI-3K activity may be dispensable for Src-PLCγ2 activation in GPIb-IX-V-mediated signaling.

Glycosphingolipid-enriched microdomains (GEMs) appear to provide platforms for the signal transduction pathway related to GIb-IX-V, since the interaction between GPIb-IX-V and Src or PLCγ2 tyrosine phosphorylation occurs exclusively in GEMs.

14-3-3ζ appears to play a role as an adaptor protein to recruit PI-3K and Src to GPIb-IX-V, and it may also regulate cytoskeletal reorganization, by activateing Rac and Cdc42. The cytoskeleton associated with GPIb-IX-V may act as platforms for interactions among signaling molecules. It is also likely that the cytoskeletons play a role in lateral clustering of GPIb-IX-V which has been shown to lead toαIIbβ3 activation.

(Ozaki et al., Platelet GPIb-IX-V-dependent signaling. Journal of Thrombosis and Haemostasis. 2005 Aug;3(8): 1745-1751)