掲載日:2019.10.17 お知らせ
喜多村和郎教授(生理学講座神経生理学)らの研究グループが『目標志向行動中の小脳における多様な情報の解読』に成功
大学院総合研究部医学域生理学講座神経生理学の喜多村和郎教授らのグループによる研究論文が、「eLife」に掲載されました。
雑誌名:「eLife」2019年10月9日オンライン版(グリニッジ標準時)
論文タイトル:Modular organization of cerebellar climbing fiber inputs during goal-directed behavior
著者:Shinichiro Tsutsumi, Naoki Hidaka, Yoshikazu Isomura, Masanori Matsuzaki, Kenji Sakimura,
Masanobu Kano, Kazuo Kitamura
DOI番号:10.7554/eLife.47021
ほ乳動物の脳において最も数多くの神経細胞が存在する小脳は、全ての感覚入力を受け取り、他のあらゆる脳部位と直接/間接に相互結合を形成していることから、動物の多様な行動の発現や適応に重要な役割を果たすと考えられています。これまで、小脳は運動制御や運動学習に必須な脳構造として、単純な反射運動や眼球運動を中心に、その情報処理の神経回路メカニズムが明らかにされてきました。その一方で、外部の環境に応じた判断をして適切な行動を行い報酬を得るといった複雑な行動における小脳の役割についてはよくわかっていませんでした。今回、喜多村教授らの共同研究グループは、この問題に取り組むため、個々の神経細胞の活動が観察可能なマウスにおいて、外部刺激に応じて行動することが必要な運動課題の開発を行いました。この課題を実行中のマウスで2光子顕微鏡を用いた神経活動の観察を行った結果、小脳において、運動の準備や開始のタイミング、速度といった運動に関する活動に加えて、行動の抑制や報酬に関わると思われる活動があることを発見しました。また、これらの情報は小脳のさまざまな場所に並列に伝えられていることを明らかにしました。この結果は、これまで主に運動機能に着目して研究が進められてきた小脳が、それ以外の非運動機能に関わる情報も同時に処理し、高度な行動の発現に貢献していることを示しています。今後は、小脳における多様な情報がどのような脳部位との相互作用によって生みだされているのかを明らかにすることで、動物の複雑な行動発現を可能にする脳ネットワークの全容解明に取り組んでいきます。
本研究は、東京大学、玉川大学、新潟大学との共同研究による成果であり、科学技術振興機構(JST)、日本医療研究開発機構(AMED)、ならびに科学研究費補助金などの支援によって実施されました。