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掲載日:2019.9.26 お知らせ

川原敦雄教授(発生生物学)らの研究グループが『魚類の孵化腺や側線の発生に重要な遺伝子の機能』の解明に成功

山梨大学大学院総合研究部(発生生物学)の川原敦雄教授は、脊椎動物間で保存されている転写因子klf17遺伝子をゲノム編集技術CRISPR/Cas9により破壊したゼブラフィッシュ変異体を作製しその機能解析を行った結果、klf17遺伝子が孵化腺と側線の発生に重要な役割を担っていることを明らかにしました。研究成果は、2019年9月26日(木)午後6時(日本時間)にScientific Reports(電子版)のOnline Publicationとして掲載されます。

 

内容(概略)                         

論文タイトル

Characterization of biklf/klf17-deficient zebrafish in posterior lateral line neuromast and hatching gland development (biklf/klf17遺伝子破壊ゼブラフィッシュの後部側線感丘と孵化腺の発生における表現型解析)

Klf型転写因子(Klf1~Klf17)はC末端にジンクフィンガー型DNA結合ドメインを持つ転写因子です。Klf4はiPS細胞の作製に必要な4転写因子の一つであり分化した細胞の初期化に重要だと考えられていますが、各Klf型転写因子の形態形成における生理機能は十分には解明されていません。我々は、これまでにbiklf (blood island enriched krüppel-like factor)/klf17遺伝子が、初期発生過程で血島(造血発生の場)および孵化腺(孵化酵素を産生)に特異的に発現する新規のKlf型転写因子として報告しました(Kawahara et al. Mechanism of Development 1999, Current Biology 2000)。klf17遺伝子は、ゼブラフィッシュから哺乳類まで単離されていますが、ゲノム改変を基盤とした変異体の表現型解析の報告がなく、klf17遺伝子の形態形成における機能は十分には理解されていません。

 私達は、ゲノム編集技術CRISPR/Cas9を用いklf17遺伝子破壊ゼブラフィッシュを作製し、その表現型解析を行いました。klf17遺伝子の機能を一過性に抑制するアンチセンス・モルフォリノを注入した胚では顕著な赤血球の減少が報告されていますが、恒常的にゲノム改変を行ったklf17変異体では赤血球の循環が認められました。野生型胚は2〜3日で孵化しますが、klf17変異体は受精後15日前後までに孵化できず死滅することを見出しました(klf17変異体の卵膜をピンセットで強制的に剥がすと15日以降も飼育できます)。孵化腺の形成過程を組織染色法や組織免疫法を用い調べた結果、孵化腺細胞が形態学的に存在しないこと、孵化酵素の遺伝子やタンパク質の発現が消失していることを見出しました(図1)。

 klf17遺伝子は、水の流れを感知する感覚器官である側線においても発現しています。後部側線は、耳の後方で原基が形成され発生の進行に伴い尾部に移動し、その過程で細胞集団の一部が一定間隔で分離され感丘が形成されます。klf17変異体では、感丘を形成する細胞集団の分離が後方へシフトし、感丘の数も減少することが明らかとなりました(図2)。本研究のklf17変異体の機能解析から、klf17遺伝子が孵化腺細胞や側線の感丘の発生に重要な役割を担っていることが明らかになりました。

 

今後の研究について

klf17遺伝子に対するアンチセンス・モルフォリノを用いたノックダウン胚では赤血球数の顕著な減少が認められましたが、klf17遺伝子座のゲノム改変によるノックアウト胚では赤血球の循環が確認され、両解析間で表現型が一致していません。造血発生の場である血島にはklf17遺伝子以外にklf1, klf2a, klf3, klf6a, klf8の発現が報告されており、それらが機能的に補完している可能性がありますので、造血発生におけるKlf型転写因子の機能的相互作用の分子実体を調べることが重要だと考えています。孵化腺および側線は魚類に特徴的な組織であり、我々哺乳類には存在しない組織です。脊椎動物間で共通するKlf17転写因子の分子機能があるか否かも重要な研究課題として残っています。

 

今回の研究の応用に関して

今回の研究結果は、湖沼などの閉鎖水域における有害外来魚の個体数をコントロールすることに応用が可能であると考えています。有害外来魚のklf17遺伝子をゲノム編集技術で破壊することができれば、孵化不全による胚性致死となることが予想されます。本来の在来種を脅かし、特に琵琶湖(滋賀県)や西湖(山梨県)などにおける水産業に致命的なダメージを与えるブラックバスなどの有害外来魚が問題となっておりますので、例えばklf17遺伝子を破壊した遺伝子座を保有する成魚(*)のオスなどを放流することで、その遺伝子座の次世代への伝搬により有害外来魚の個体数を選択的に減らすことができると考えられます。なお、この研究に関連し、下記の特許を申請中です。

*脊椎動物の場合、父方と母方から一つずつ染色体を受け継ぎますが、片方の遺伝子座のみklf17遺伝子が破壊されていても(ヘテロ型)発生には影響しません。両方の遺伝子座が破壊された時に孵化不全となりますので、この遺伝子座が次世代に受け継がれる過程で次第に胚性致死となる個体の割合が増えると考えられます。

 

特願 2019-018132, 2019/02/4出願
発明名称:klf17遺伝子が欠損した魚類乃至両生類、その製造方法、及び魚類乃至
     両生類の繁殖制御方法

 

図1 klf17変異体は孵化腺細胞の消失による孵化不全の表現型を示す

図1 klf17変異体は孵化腺細胞の消失による孵化不全の表現型を示す

 

(A-C) 野生型と卵膜を削除したklf17変異体は15日胚で生存するが、klf17変異体は孵化不全で死滅する。(D, F) klf17変異体では孵化腺細胞(矢頭)が欠損している(HE染色)。(D, F) klf17変異体では孵化酵素(Cathepsin l1b: 矢頭)の発現が認められない。

 

図2 klf17変異体における側線感丘の発生異常(2日胚)

図2 klf17変異体における側線感丘の発生異常(2日胚)

 

(A, B) 側線感丘を4-Di-2-ASP染色で可視化(緑色)している。(C, D) 側線感丘におけるアルカリフォスファターゼの蓄積を可視化(紫色)している。側線感丘は体の両側に存在し、矢頭は右側をアスタリスクは左側の側線感丘を示している。klf17変異体では、側線感丘の位置が後方にシフトしており、感丘の数も減少している。


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