apo(a)

apo(a)[アポ蛋白(a)]

アポ蛋白(a)[apo(a)]は、ヒトや霊長類しか持っていない非常に特殊なアポ蛋白です。このapo(a)は、血中ではLDLと結合(正確にはLDLの構成蛋白であるアポBと結合)して、存在しています。このapo(a)が結合したLDLは特別に「Lp(a)」と呼ばれています。


このLp(a)は、動脈硬化の危険因子として、悪玉コレステロールと呼ばれて有名なLDLと比べても、より危険性の高いリポ蛋白として注目されており、臨床的、疫学的にはその危険性を裏付けるような報告が数多くされています。しかしながら、動物モデルを使った実験でそれを科学的に証明することはできませんでした。その理由は、Lp(a)を普通のLDLとは別物にしている犯人→apo(a)が、ヒトと霊長類にしか存在しないために、実験で多く使われているマウスは持っていなかったからです。そこで、遺伝子改変技術により、ヒトのapo(a)をマウスに発現させて、Lp(a)をマウスの体内に作ってしまおうという試みがなされましたが、その試みは失敗に終わりました。マウスのLDLと、マウスに導入したヒトapo(a)が結合してくれなかったためです。
マウスの脂質代謝やリポ蛋白の組成は、ヒトとはかなり違っていることが報告されています。一方でウサギは、ヒトによく似た脂質代謝を行っていることが知られている動物です。そのため、ウサギにヒトapo(a)遺伝子を導入すれば、ウサギの体内でLp(a)が再現できるのではと考え、私たちはそれに挑戦することにしました。
結果は、ウサギの血中でウサギのLDLに、導入したヒトのapo(a)がみごとに結合し、Lp(a)になっていました (Biochem Biophys Res Commun 1999 255:639-44) 。これでようやく、動脈硬化とapo(a)の詳しいメカニズムの解明が可能となりました。

動脈硬化とapo(a)

コレステロールを多く含む餌を与え、ウサギに動脈硬化を起こさせ、Lp(a)を持つapo(a) Tgウサギの動脈硬化病変を観察しました。すると、Lp(a)を持たないウサギに比べ、動脈硬化病変が強くなっていることが明らかになりました (Arterioscler Thromb Vasc Biol 2001 21:88-94) 。そして、その病変内で、apo(a)もしくはLp(a)が存在する部分にはマクロファージが全然見当たらず、平滑筋細胞のような細胞が多く見られましたが、成熟平滑筋細胞のマーカーで免疫染色しても、その細胞は染まりませんでした。しかしながら、数種類の平滑筋細胞の分化段階に応じた抗体を用いて染色したところ、未分化な平滑筋細胞マーカーでその細胞がきれいに染まりました。このことから、apo(a)やLp(a)は、病変内の平滑筋細胞を脱分化させて、そのために平滑筋細胞が本来の仕事場から病変内にどんどん移動してくることで、動脈硬化病変をひどくしている可能性を示すことができました (Am J Pathol 2002 160:227-36)。また、遺伝的な脂質代謝の異常のために、餌によって起こる動脈硬化よりもさらに強い動脈硬化を自然発症するWHHLというウサギとapo(a)ウサギとをかけ合わせることで、進行した動脈硬化病変とapo(a)、Lp(a)との関係を明らかにしようと考えました。その結果、apo(a)を持つWHHLウサギでも、やはり病変が強くなっていることが観察されました (Ann N Y Acad Sci 2001 947:362-5) 。さらにその病変を詳細に検討すると、相当ひどい動脈硬化病変でしか見られないカルシウムの沈着や石灰化がかなり頻繁に観察されました。そして、Lp(a)、平滑筋細胞、石灰化という3つの関係を直接的に明らかにするために、培養平滑筋細胞にLp(a)を加えたところ、石灰化に関係する酵素であるアルカリフォスファターゼの活性が上がり、カルシウムの沈着が起こりました。これらのことから、Lp(a)は病変の石灰化に直接的に関係している可能性を示すことができました (J Biol Chem 2002 277:47486-92)

心筋梗塞とapo(a)

臨床におけるこれまでの報告で、Lp(a)が心筋梗塞発症の危険因子であることが明らかにされてきましたが、実際に実験レベルで詳細な検討はされていませんでした。そこで我々はapo(a) Tg WHHLウサギを用いて、心筋梗塞とLp(a)との直接的な因果関係および分子メカニズムの解析を行ないました。ヒトにおいて心筋梗塞は、中年期から老年期において高率に発症する疾患であるため、今回のウサギでは、2年齢のものを用いました。ウサギにおいて2年齢といいますと、生殖能力が非常に低下している年代であり、高齢であることは間違いありません。このウサギの心臓を詳しく解析したところ、冠動脈に著明な動脈硬化が見られ、高度の狭窄が観察されました。また、動脈硬化病変は、apo(a) Tgウサギにおいて、正常ウサギの3.5倍にも増大しており、心筋梗塞の発生率も高くなっていることが明らかになりました。これにより、動物モデルにおいては世界で初めて、Lp(a)の増加による心筋梗塞の発症を観察することができました。