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Orthopaedic Scientistを目指して

市川 二郎

整形外科学講座 助教 (2015年12月)

がん研病院での術後カンファレンス:前列の一番左が筆者、前列中央が松本先生

 整形外科と聞いて皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?骨折の手術や、脊椎の手術、人工関節の手術など、ダイナミックに骨を切ったり、スクリューを入れたりと言ったイメージがあるかもしれません。私の専門は骨軟部腫瘍といって、整形外科の中でも稀な分野で、患者数もあまり多くありません。ただ、例えば原発性悪性骨腫瘍の代表である骨肉腫は10歳代が好発年齢であり、患肢を温存することと、予後を改善することは非常に重要なことで、日本の未来を明るくすることだと思っています。また、昨今は肺がんや乳がんなどの患者数は増加傾向にあり、新しい抗がん剤の開発で予後が改善しており、上皮系腫瘍の骨転移の罹患数も確実に増加してます。四肢や脊椎への骨転移は患者のQOLを著しく下げる重要な因子であり、内固定による手術はそのQOL低下を防ぐのに大きく寄与しており、骨軟部腫瘍外科の存在価値は年々高まっていると言えます。このように患者さんを診察、治療していると、やはりどうして?なぜ?といろいろな疑問を感じたり、何か新しい治療が開発されないか、などの気持ちがどんどん増えていきます。この気持ちを少しでも解消するための一つの手段として基礎研究があるのではないかと思います。bench-to-bedsideという言葉はまさにその通りだと思います。

 私は2000年に山梨大学(当時山梨医科大学)を卒業しました。整形外科を選んだ理由は学生自体にラグビー部に所属しており、しばしば怪我で整形外科にお世話になったからとラグビー部の先輩に誘われたからです。最初はスポーツ整形などをしたいなぁと漠然と考えていました。大学院も言われるがままに入学しました。そしていざ研究する場面になりましたが、その際に何の実験をしようか?と悩みました。先輩の先生方が骨肉腫細胞を用いて実験を行っていましたので、私もそれに倣って実験を開始しました。ここまではいかに私が主体性がないかよくわかると思います。ただ、大学院時代に実験をする中で、骨肉腫の新規治療の開発や、どのように転移するかを解明することが非常に面白いと思い、その分野をやってみたいと初めて主体的に思いました。更に、研究でも、臨床でもいいので“留学”に行きたいと、やはりこれも自分の意思として思いました。本当に私はラッキーだなといつも思いますが、臨床・研究ともに留学することが出来ました。その中で、私が影響を受けた2人の先生を紹介したいと思います。

 一人はアメリカ留学時代にお世話になった、PI(principal investigator)のDr Jonathan Schoeneckerです。といっても、教授でもないですし(助教です)、整形外科医ですが小児整形が専門、年齢も私より少し上ぐらい、博士号は持っていますが、もちろん臨床を主に行っており、研究を久しぶりに再開する感じでした。ただ、私も同じで、博士号がありましたが、有名な論文があるわけでもなく、彼自身も私に対してこいつは大丈夫か?と思ったと容易に想像できます。私の留学先はアメリカ、テネシー州のナッシュビルにある、バンダービルト大学(Vanderbilt University)の整形外科でした。ちょうど私が留学した際に整形外科でラボを立ち上げるとのことで、実験助手さんが1人、大学院生が1人、私、Jonの計4人での船出となりました。彼から言われたことは凝固、線溶系と骨代謝、腫瘍などを実験してくれと言われました。私自身、凝固・線溶系に関しては全くの素人ですし、まず、凝固・線溶が何かというところからのスタートでした。更には、Jonは整形外科医ですので、手術日や外来日もあり、1週間に2日程度しかラボに居ません。ただ、今考えると、ラボがまだ立ち上げだったり、PIが不在だったり、Disadvantageがあったからこそがむしゃらに勉強できたのかなと思います。スモールラボだからこそのAdvantage、例えば自分でこんな実験はどうかなどの提案や意見がしやすく、自分にとってはプラスだったと思います。また、ラボメンバーへのプレゼンを行うことや、メンバーがみんなアメリカ人だったので、英語力向上にはとてもいい環境でした。必ずしもいい環境や状況でなかったとしても、自分の行動や考え方一つでそれらはどのようにでもなるのではと思います。また、私の意見をいつも後押ししてくれたJonには感謝しています。後日談ですが、彼の父親も整形外科医で、日本人と一緒に仕事をしたことがあるそうです。留学されていた日本人の先生(九州大学の整形外科の先生)の勤勉さ・真面目さに関していつも聞かされていたそうです。私と一緒に仕事をすることとなり、私が夜遅くまで仕事をしたり、週末にも仕事をしているところを見て、日本人はやっぱりすごいと思い、また、父親から聞いていたことは本当だったとも思い、こいつなら大丈夫だと思ったと言っていました。文化や人種は違いますが、“頑張ること”“真面目さ”などと言った部分は普遍ではないかと思っています。

 もう一人はがん研有明病院の松本誠一先生です。アメリカ留学が終わり、私はそのままがん研有明病院に臨床で留学させていただきました。その時の整形外科部長が松本先生です(現副院長)。骨軟部腫瘍の手術で、腫瘍のみを切除する(辺縁切除と言います)と再発率が高いことが知られていました。その再発率を下げるために腫瘍に正常な組織を付けて手術をすることを広範切除と言いますが、この概念を確立させ、発展させたのが、がん研病院の整形外科です。今では全国の骨軟部腫瘍外科医がこの概念に基づき手術を行っています。また、症例数も全国1位だと思います。教えていただいたことはたくさんありますが(たくさん怒られたこともあります)、やはり術前計画の重要さだと思います。腫瘍に正常組織を付けて、安全に切除するために、何を切らないといけないのか、切った際に再建が必要になるか、など術前に計画をしないといけません。また、計画することで、手術に参加する助手の先生も含めてみんなで意思統一ができるのです。そうすることで、手術時間の短縮、出血量の減少につながりますし、また、とかく術者は術中、視野が狭くなる傾向にあり、術前の計画より切除する範囲が狭くなったり、不用意な出血などに遭遇します。それらを手術中に助手の先生が指摘、指導、サポートします。このように手術はチームプレイであり、誰一人欠けてもうまくいかないのです。がん研には熟練した医師も多数おり、また、多くの症例を経験しているはずですが、すべての先生がこの術前計画に時間を割いていました。また、多数の症例が集まらない臨床研究でも、あるいは症例報告でも、必ず論文を書きなさいとも言われました。自分達が行っていることをいろいろな人に知ってもらうことの大切さを強調されていました。

 今回紹介させていただいた人以外にも多くの人に出会えたことは私にとっての大事な財産です。例えば、大学院生の時にお世話になった免疫学の中尾先生、現在共同研究を行っている臨床検査の井上先生もそうです。たくさんの出会いは必ず自分の成長の糧になると思いますし、人間としての幅も広がると思います。

 最後に、このような方々と出会うチャンスが持てたのも、波呂教授が留学の機会を与えてくださり、医局の先生方が快く送り出していただけたからです。この場を借りて深謝いたします。今、現在も臨床と研究をバランスよく行えるOrthopaedic Scientistを目指して頑張っています。ぜひ、皆さんが整形外科に興味をもっていただければと思います。

 

アメリカ留学時代:前列で座っているのが筆者、後列右から2番目がJon


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