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Chronoallergology(時間アレルギー学)

中村 勇規

免疫学講座 講師 (2015年4月)

タイトルに使わせていただいた単語は、最近我々の研究成果を元に、私の所属する免疫学講座の教授である中尾篤人教授が提唱した学術領域を示す造語です。私たちの研究室では“アレルギー疾患”を“体内時計”という新しい着眼点から追求し、新規の予防・治療法の開発を目指し研究を行っています。
“アレルギー疾患”と聞いて、皆さんが最初に思いつく疾患は“花粉症”だと思います。最近の調査では、日本人の4人に1人が花粉症だと報告され、深刻な国民病だとも言えます。その花粉症を有している方には実感していただけると思いますが、症状が悪化する時間が一定(朝方)であることが古くから知られています。では、なぜその時間に一定して症状が現れるのでしょうか?実は、古くから言われているこの疑問は、現在に至るまで解明されていませんでした。そこで私たちはこの疑問を解明することで、現在行われている抗ヒスタミン剤などの対症療法(表面的な症状の消失あるいは緩和を主目的とする治療法)ではない新しい治療・予防法が開発できるのではと考え研究をはじめました。
この疑問を解明する一つのアイデアとして、近年ヒトにおける遺伝子が同定された“体内時計”に私たちは着目しました。“体内時計”と言ってもみなさんの体の中に一つだけあるのではなく、体中のほぼ全ての細胞が持っていると言われています。それらの細胞は様々な因子(メラトニン、コルチゾールなどのホルモン分泌など)を介して、脳内にある「親時計(中枢時計)」の指令によって時計合わせをし、その結果、意識しなくても体の機能が日中は活動状態に、夜間は休息状態になります(24時間の周期性=概日リズム)。
これらのことから、私たちはくしゃみや鼻水の原因であるヒスタミンなどを放出する細胞である“マスト細胞”にも体内時計があることが予測でき、実際存在することを私たちは明らかにしました。また、花粉症、蕁麻疹などの症状が発現する代表的なメカニズムとして、Ⅰ型アレルギーと分類される「アレルゲン特異的IgE抗体とマスト細胞」が挙げられます。私たちの体内ではマスト細胞の表面にあるIgE抗体に対する受容体(FcepsilonRI)にIgEが結合した状態で待ち構えており、アレルゲンが体内に侵入すると即座に脱顆粒と呼ばれる反応が誘導され、くしゃみなどのアレルギー反応が引き起こされます。これらの原理を利用したマウスモデルがアレルギー研究の分野では古くから用いられており、私たちもそのモデルを用いて、本当にアレルギー反応に概日リズムが存在するのか否かについて検討しました。半信半疑で行ったのですが、本当にアレルギー反応に概日リズムが明確に分かる結果が得られ、その時の興奮は今でも覚えています。
その後はさらに詳細なメカニズムの解明に勤しみ、アレルギー反応の概日リズムは体内時計によって制御されるFcepsilonRIの発現変動によるものだというメカニズムの一端を明らかにしました。この成果は、アレルギー学で最も権威のある海外学会誌に3報掲載され、国内では新聞、インターネット(yahoo newsなど)でも取り上げられるほどの評価を得ることができました。これらの成果は私一人の力ではなく、中尾教授をはじめ、お力添えをしてくださった皆様のおかげだと思っています。
簡単ですが、私の研究を紹介させていただいきました。「もう研究終わったんだ」と思うかもしれませんが、まだまだ研究はここからです。メカニズムの一端と書かせていただいたのが事実であって、アレルギーの治療法が見つかったわけでもなく、治療法開発のため僅かな情報を得たに過ぎません。やはり最終的には、対症療法ではなくアレルギー疾患の根治を目指して今後も研究を行っていきたいと思っております。
“Chronoallergology(時間アレルギー学)”、いつの日かこの単語が世界中の研究者、さらに言えば一般の方々誰もが知る単語になることを願い、精進していきたいと思います。

論文受理の祝勝会にて(右:中尾教授、中央:筆者、左:石丸助教)


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