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消化器外科医の研究と、その臨床への応用

河野 寛

外科学講座第1教室 准教授 (2018年7月)

 私は山梨医科大学の4期生で、平成元年に大学を卒業し、すぐに大学院生理系に進むとともに、同時に第一外科へ入局いたしました。大学院時代より取り組んできた研究課題は、「肝疾患病態における肝類洞免疫の役割の解析」です。特に肝類洞に存在する免疫担当細胞である肝マクロファージ(Kupffer細胞)の肝病態への役割に関する研究を行ってまいりました。

肝臓を構成する細胞群としては、大きく分けて肝実質細胞である肝細胞と、非実質細胞である肝類洞壁細胞群に分けられます。Kupffer細胞は肝類洞壁細胞群に属し、肝類洞の内側に張り付くように存在し、貪食により消化管より門脈を介して流入してくる異物除去能、活性酸素やサイトカインなどのメディエーター産生能、抗原提示能など種々の働きを有しており、肝臓の自然免疫機構において非常に重要な役割を果たしています。

私の研究時期は大きく分けて、大学院時代、アメリカ留学、帰国後に分けられます。私がこれまで行ってまいりました研究の概要を以下に記載致します。

 

I:炎症時における肝マクロファージの機能解析(大学院時代)

大学院時代は、Kupffer細胞のエンドトキシン血症における役割に関する研究を行っておりました。

1)重症エンドトキシン血症時のKupffer細胞の役割:、Kupffer細胞抑制により肝障害と致死率が完全に改善され、その機序の1つとしてスーパーオキサイドが関与していることを解明し、エンドトキシン血症における活性化Kupffer細胞の役割と、その抑制効果の意義を明らかにしまた(Kohno et al. Eur Surg Res. 1997; 29:176-86.)。

 

II:アルコール性肝障害における肝マクロファージの機能解析(アメリカ留学)

大学院卒業後、2年間の臨床研修の後に1996年4月から1999年8月まで、アメリカ合衆国ノースカロライナ州立大学薬理学のLaboratory of Hepatobiology and Toxicology教室(Prof. Ronald G. Thurman)にアルコール性肝障害研究のため3年4か月間留学しました。留学中の研究課題はアルコール性肝障害の発症機序解明でした。ノックアウトマウスを用いた研究を行うために、ラットですでに確立されていた経胃瘻アルコール投与モデルのマウスへの応用に取り組み、世界で初めてマウスでの胃瘻モデルを用いたアルコール性肝障害作成に成功しました。さらに、様々なノックアウトマウスモデルを用いて、アルコール性肝障害の発生機序に関わる因子の解明を行いました。

2)アルコール性肝障害発症機序における、腸管由来エンドトキシンによる活性化Kupffer細胞の関与‐特にフリーラディカルの関与について‐:肝細胞由来のフリーラディカル産生源として重要と報告されてきたCytochrome P4502E1(Kono et al. Am J Physiol. 1999; 277:G1259-G1267.)と、マクロファージ由来のフリーラディカルの産生源であるNADPH oxidase(Kono et al. J Clin Invest. 2000; 106:867-72.)のアルコール肝障害における役割を検討し、Kupffer細胞由来のフリーラディカルがアルコール性肝障害発症機序において非常に重要である事実を明らかとしました。

 アメリカからの帰国後も研究を継続できる環境をいただき、これまで大学院生と一緒に研究を行ってまいりました。

 

III:肝臓を中心とした臓器相関の解析(帰国後)

3)肝切除後感染症におけるKupffer細胞の活性化抑制の意義(図1参照)エンドトキシン血症におけるKupffer細胞活性化の抑制が肝細胞機能保護の点からも有用であることを報告しました(Kono et al. J Surg Res. 2001; 96:204-210.)。

4)エンドトキシン血症時の末梢血中サイトカイン活性値とKupffer細胞のサイトカイン産生能の比較(図1参照)末梢血中サイトカイン値が臓器局所での活性を反映していないことを報告しまた(Kono et al. J Surg Res 2002; 106:179-187.; Kono et al. J Surg Res. 2005; 129:176-89.)。また、Kupffer細胞には形態学的にsmallとlarge1の亜種が存在し、エンドトキシン刺激に対する反応がそれぞれ異なる事実も報告しました (Kono et al. J. Surg. Res. 2002; 106:179-187.; Kono et al. J Surg Res. 2005; 129:176-189.)



5)腹膜炎に起因する急性肺障害発症機序における肝臓、肺の臓器相関
(図2参照) Kupffer細胞消去により血清中抗炎症性サイトカインIL-10が低下、致死的サイトカインHMGB1が高値となり、宿主の生存に影響を与える事実が報告しました (Kono et al. J Surg Res. 2005; 129:176-189; Kono et al. J Leukoc Biol. 2006; 79:809-817)。また、Kupffer細胞の抑制により細菌性腹膜炎による肺障害が増悪する事実を報告し、炎症時に肺と肝臓は、相互に関連しあっている事実を解明しました。

6)腹膜炎における脾臓の役割(図3参照): 致死的サイトカインHMGB1の血清値は、肝マクロファージ抑制状態で増加し、脾摘の状態では上昇を認めず、HMGB1の主な産生臓器は脾臓である可能性と、脾臓と肝臓が門脈を介して臓器相関している可能性を報告しました。

 

 

IV.肝細胞癌の肝内再発ならびに多中心性発癌への肝免疫機構の役割の解明(帰国後)

肝細胞癌再発には、活性化肝マクロファージ、肝内酸化ストレスが関与していることを報告しました (Asakawa and Kono et al. Int J Cancer 2006; 118:564-570; Maki and Kono et al. Ann. Surg. Oncol 2008; 14:1182-1190; Hosomura and Kono et al. 2011 Dig. Des. and Sci.)。また、背景肝細胞に発現するmacrophage colony-stimulating factorが活性化マクロファージ由来の血管新生因子を誘導し、肝細胞癌の再発期間を短縮する事実を報告しました(Kono et al. World J Gastroenterol. 2016; 22:8779-8789.)。

 

V.肝胆膵周術期の病態における肝類洞免疫機構の解明(帰国後)

Kupffer細胞の肝再生、肝障害、虚血再灌流障害、肝発癌などの肝胆膵周術期の病態における役割に関する研究も展開してきました。多岐に渡る疾患モデルを作成し、肝マクロファージのみならず、肝類洞に存在する免疫細胞群の各病態における役割を解析し、多くの研究成果を報告しています。さらに、本学臨床医学講座 井上克枝教授との血小板と肝類洞壁細胞との相互関連に関した共同研究に取り組み、肝再生と虚血再灌流障害モデルで検討を行い肝再生における血小板の役割に関して報告しました(Kono et al. J Thromb. Haemost. 2017; 15:998–1008)。

 

VI.栄養免疫学的検討(帰国後)

中鎖脂肪酸の抗炎症性効果ならびに免疫栄養学的効果の検討行い、肝障害、肝発癌、炎症性腸疾患の炎症の改善と消化管免疫能活性化に関する報告をしています。(Kono et al. 2000 Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2000; 278:G467-G476.; Kono et al. 2003 Ann Surg 2003; 237:246-255; Kono et al. Translational Research 2010; 156:282-291; Kono et al. Translational Research 2010; 155:131-141)

 

 これまで肝類洞免疫を中心とした研究を行ってまいりましたが、現在、私の研究者としてのゴールと、指導者としてのゴールは少し異なってきていることを感じております。すなわち、研究者としての使命は、自分が最も興味をもっている肝臓の自然免疫の研究をさらに発展させ、その研究成果によって診断や治療に大きく貢献できることです。一方、指導者としての使命は研究を志す後輩達に、研究の手ほどきをし、理論的に考える力を育て、生命科学への目を開かせ手一人前の研究者を育てることです。研究の楽しさを知ってもらうとともに、データ蓄積と解析により発見した新しい知見を、世の中に発信できる研究者を育成できる良き指導者としても成長していきたいと思っています。

今後とも、微力ながら山梨大学の発展への貢献のため努力していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

 

第49回日本腹部救急医学会総会にて理事長賞を受賞した際の筆者

 


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