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皮膚科五大賞受賞までの道のり

川村 龍吉

皮膚科学講座 准教授 (2015年1月)

現:皮膚科学講座 教授

 平成2年卒業(5期生)の皮膚科・川村龍吉です。ちょっと自慢が過ぎるタイトルなのでとても気が引けるのですが、折角ご依頼いただいたテーマなのでこのまま書かせていただきます。バブルが弾けた頃に当大学皮膚科に入局した私は、玉置邦彦前教授(その後東大教授)のご指導のもと、入局5年目頃まで皮膚外科手術に明け暮れる日々を過ごしました。そんなある日、本来外科医がすべき乳房パジェット癌(乳癌の一種)の手術にも挑戦してみたいと当時の古江増隆助教授(現九州大学教授)に直談判した際に、「川村君、手術はもう十分だから研究をしてみないか」と言われたのがきっかけで、その後はリサーチの道にどっぷりと浸かることになります。すぐに皮膚免疫学界の若き巨匠、島田眞路教授が就任され、順天堂大学免疫学教室(奥村康教授)に国内留学3年間、米国国立衛生研究所(NIH)皮膚科(Steve Katz博士)に4年間留学と、皮膚免疫学の一流の教育を受けさせていただきました。
 留学先での華々しい成果を引っ提げて平成14年に意気揚々と帰国した私は少し有頂天になっていましたが、案の定島田教授に「留学中での成果は本当の意味で君の実力ではない。これからの成果が大事だ」と戒められました。その時は自分の研究成果を否定されたような気持になりましたが、確かに一流のラボで得た業績などは運によるものが大きく、決して自分の力で構想を練った研究ではありません。今思うと、その頃が私にとってのターニングポイントだったと思います。その後、1)感染症、2)炎症・アレルギー、3)腫瘍を臨床・研究の3本柱として、「山梨から何か新しいことを世界に向けて発信する」ことを目標に日々奮闘することになります。
 1)感染症に関しては、NIHで行っていた性行為HIV感染におけるウイルスの生体内侵入機序の研究を継続し、その詳細なメカニズムや他の性感染症との関わり、新たな予防法の開発などについての成果をJ Immunol誌、J Invest Dermatol誌、Blood誌、Cell Host & Microbe誌などに報告しました。最初の論文のJI誌で「ガルデルマ賞(年間Best 3論文)」を、また一連のHIVに関する研究成果を評価されて「ロート皮膚医学研究基金研究助成(ロート賞;最近5年間の研究業績Best 3)」をいただきました。我々の提唱したHIV感染初期にランゲルハンス細胞が重要な役割を果たすというGate keeperモデルは現在世界で広く認められています。2)炎症・アレルギーに関しては、接触皮膚炎(かぶれ)や亜鉛欠乏に伴う皮膚炎(腸性肢端皮膚炎)の発症メカニズムに関する研究成果をJ Invest Dermatol誌、J Clin Invest誌などに報告し、JCI誌で日本の皮膚科で最も権威のある賞「日本皮膚科学会皆見省吾記念賞」をいただきました(写真)。亜鉛に関する研究を始めたのは、私が病棟医長の時に腸性肢端皮膚炎の患者さんが入院してこられたのがきっかけでしたが、当時は亜鉛が欠乏するとなぜ四肢末端と開口部周囲にのみに紅斑が出現するのかは謎でした。その後6年ほどかけてこの皮膚炎が実は単なる“かぶれ”であることを見出し、その発症メカニズムを解き明かしました。この論文が世に出て、ようやくPhysician scientist(臨床医学者)の端くれに成れたような気がします。3)腫瘍に関しては、分子標的薬の抗腫瘍効果に関する研究成果をJ Dermatol Sci誌に2報発表し、また当院におけるセンチネルリンパ節廓清術の135症例をまとめた論文で「日本皮膚科学会雑誌論文賞(年間No. 1日本語論文)」をいただきました。昨年末にいただいた「日本研究皮膚科学会賞(JSID賞)」は最近5年間の研究業績の最も優秀な皮膚科医に与えられる賞で、5年間の総Impact factor数や主要論文の内容などを基準に選出されます。NIH皮膚科で同じ釜の飯を食った最も親しい友人の一人である東大皮膚科の菅谷誠准教授と競った末に選ばれたと聞き及んでいますが、きっと地方で四苦八苦している私に同情の票が入ったのだと思います。
 月並みですが、私の長年の研究生活における一番の成果は、賞を多く獲ったことでも、論文をたくさん書いたことでもなく、菅谷先生のような一流の研究者の友人が数多くできたことです。毎月のようにある学会や研究会で、そんな友人たちと研究談義をしながら酒を酌み交わすのが今の私にとっての至福の時です。今後、彼らと互いに切磋琢磨しながら皮膚科学の発展に貢献できればと思っていますが、気がかりなのは最近基礎研究をする臨床医が減少していることです。当大学のリエゾンアカデミー研究医養成プログラムで、当科猪爪隆史先生指導のもと医学部6年生の古田潤平君が日本学生支援機構(JASSO)の平成26年度優秀学生顕彰の学術部門で大賞を受賞しましたが、彼のような若き研究者たちが近い将来Physician scientistとして互いに友情を育みながらサイエンスの歯車を回し続けていってくれることを願ってやみません。

平成25年度日本皮膚科学会皆見省吾記念賞を日本皮膚科学会理事長の島田眞路教授より授与される(なんだか出来レースみたいですが、偶然です)


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