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道なき道が開けるヒント

大西 洋

放射線医学講座 (2014年10月)

 私の現在の主な研究テーマは高精度放射線治療で、特に体幹部定位放射線治療に最も力を入れています。5cm以内の限局した肺癌・肝臓癌・前立腺癌・腎臓癌・膵臓癌などに多方向からピンポイントで放射線ビームを集束させる治療です。腫瘍の位置の正確な把握、呼吸や腸管運動などへの対策、正常臓器を避けるビームの設定、高度な線量計算など、最先端放射線治療技術の粋を集めた治療方法で、従来よりも大線量を短期で腫瘍部分に集中させることにより、より有害事象を少なく腫瘍の根治度を高めることができます。具体的な研究内容は、CTを用いた画像誘導技術や呼吸性移動縮小対策の開発と評価、I期非小細胞肺癌の定位照射の臨床研究などであり、我々の独自開発した「胸腹2点式簡易呼吸換気量インジケータ(Abches)」は日米で特許を持つ山梨大学の知的財産であり、製品化されすでに10億円以上の販売売り上げを達成しています。I期非小細胞肺癌に対する定位放射線治療の多施設研究成果としてまとめた3本の論文は、Web of ScienceのHighly cited paper(研究領域ごとの引用頻度トップ1%以内)として世界中で引用され、National Comprehensive Cancer Network (NCCN)の世界共通肺癌ガイドラインにも新しいエビデンスとして参照されています。
 これらの研究のねらいは3つのキーワードによって示されます。①新規性、②臨床的インパクト、③国際性、です。まず、①山梨のような小さい大学と人口の少ない県で世界に打って出るためにはだれも手をつけていない新規性の高いテーマを選ぶ。次に、②研究成果が臨床現場で大きな期待とニーズをもって受け止められること。そして、③国際的に世界中で同様の評価を受けること。これらの3つを満たすテーマを自分の置かれた環境とタイミングに合わせて見いだすためには、強い探究心と開拓精神・集中力と持続力をもって毎日の日常臨床現場に臨むことが重要だと思います。
 ただ振り返ってみますと、単に個人的に研究を成功させるための要点をわきまえているだけでは実際の研究に着手できなかったと感じています。大きな研究成果を上げるためには、チャンスを与えてくれる師、協力してくれる同志、支援してくれる環境、などが必要であり、それらが揃ってはじめて研究を進めることが出来ました。これらを獲得することはなかなか簡単なことではなく、指導者・同僚・スタッフ・所属施設には最大限の配慮や恩返しを常に謙虚に惜しみなく示すこと、全ての依頼や相談を断らないことが大切だと思います。そして最も必要とされるのは、患者さんと社会に貢献するための人間愛やヒューマニズムに基づいた研究への素直な情熱と努力であると考えています。
 若輩者の戯言ですが、筆者の経験から研究の道が拓けたときを思い起こして書き連ねてみました。大変失礼いたしました。

放射線治療センタのトモセレピー治療室にて (島田眞路病院長ご夫妻・Fritzミクロネシア大使ご家族らと。筆者は左から2番目)


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