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回り道と研究:人との出会い

松川 隆

麻酔科学 (2013年4月)

1.経歴
私の研究(分野の選択、進行、等)について語る場合に、私の“ちょっと変わった経歴”についてお話しする必要があります。
(1)1985年(昭和60年)群馬大学医学部卒
 直ちに山梨医科大学脳神経外科に入局(今と違ってダイレクト入局でした):当時の脳外科貫井教授が群馬大学のクラブ(軟式テニス部)の先輩であり、他の医局員も大学の先輩が大勢いらっしゃったことも入局の大きな要因でした。3年間脳外科医(大学+外関連病院)として勤務したのですが、手の接触性皮膚アレルギーが酷く脳外科医を続けることが極めて困難となり、円満に1988年(昭和63年)に山梨医科大学麻酔科に転入局させていただだきました。以後、麻酔科助手、手術部助手、手術部講師(副部長)、助教授(副部長)として手術部の運営、安全管理、麻酔業務等に従事してきました。そして、平成18(2006)年11月1日付で山梨大学医学部麻酔科教授を拝命して現在に至っています。

2.研究テーマの決定と研究を始めるきっかけ
(1)脳外科時代の研究
 脳外科医時代はまだ駆け出しの医師でしたので基礎研究は全くせず、臨床症例論文(髄膜腫)1つの執筆と臨床関連学会発表(慢性硬膜下血腫の経時的変化)1つを学会発表した程度でした。
(2)麻酔科医になって。
 麻酔科に入局してしばらく経ったある日、熊澤教授から以下の様なご相談・ご指示がありました(“ここ数年麻酔科領域の体温研究の進展がある様だ。松川先生は脳外科医を3年間してきて中枢神経系に詳しいから、麻酔と体温について研究してみたらどうだろうか”)。このお言葉が私の人生の進路を決定づけたと言っても決して過言ではないと今は感じています。その後に調べてみると、山梨大学第一生理学教室の入來正躬教授が温熱生理学の権威であることが分かりました。そこで熊澤教授から入來教授に紹介していただき、同教室でウサギを用いた“吸入麻酔薬が末梢血管収縮とシバリング(ふるえ)に及ぼす影響“についての研究を行い、学位論文を作成することが出来ました。
(3)留学:UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校:University of California, San Francisco)麻酔科・体温調節研究室
 1993-1994年の1年間、留学をしました。留学先の決定に当たっては、尾崎眞先生(現、東京女子医大麻酔科主任教授、当時同麻酔科助手(助教))と学会を通じて知り合うことが出来、尾崎先生が先に同研究室に留学をされて、私を同研究室主宰のSessler准教授(現Cleveland Clinic, Outcomes Research Labo ,Professor and Chair)にご紹介いただいたことが決め手となりました。
 同研究室では、ボランティア(有償)に麻酔をかけて麻酔薬の体温調節機構に及ぼす影響をみるという研究を行いました。ボランティアに麻酔(全身麻酔、硬膜外麻酔)を施し、各種の吸入麻酔薬、静脈麻酔薬、局所麻酔薬が体温調節反応である発汗、末梢血管収縮、シバリング(ふるえ)等にどの様な影響(時間的、量的)を与えるか、生理学的に中枢温と末梢温とがお互いにどの様に影響を及ぼし合っているか、全身麻酔により中枢の熱が末梢にどの様に再分布するか、などを熱容量、全身皮膚温、中枢温を連続的に厳密に測定して検討しました。同研究室は麻酔科領域の体温調節研究では世界一であることは衆目の一致するところでしたので、世界各地の研究者と連絡を取り合って共同研究を行いました。幸い研究機器等の環境がほぼ完璧に整備され、研究費も極めて豊富で、非常にアクティブに研究を行う研究室に留学出来ましたので、一年間としては望外の成果((論文10編(筆頭著者:3、共同著者:7)、国際学会での発表3(筆頭演者))を挙げて帰国することが出来ました。また、留学時代に共に学び、共に遊んだ外国人(アメリカ、オーストリア、オーストラリア)および日本人(内科、外科)とは現在に至るまで親しくお付き合いをさせていただいています。
(4)帰国後の研究
 留学を終えて帰国した後は①基礎的な体温研究(ウサギ)と②臨床的な体温研究の2本柱を共に軸として研究を続けてきました。幸い麻酔科の後輩達が体温班として一緒に研究をしてくれて、その結果として体温班からは7名(花形、岩下、奥山、今村、今井、佐藤、正宗)が学位を取得し、1名(猪野)が現在論文執筆中、1名(和田)が現在研究中という大きな成果を得ています。

3.終わりに
 振り返ってみますと、脳外科医から麻酔科医に思いがけず転じて、ひょんなことから体温を研究テーマに選び今日まで歩んできました。転機となる時には必ず素晴らしい人々との出会いがありました。私の教室主宰の信条は“組織は人、人は宝物”というものですが、まさしくそれを実体験してきたこの25年間でした。今後も研究への情熱を持ち続け、若い人たちを育てて一緒に学んでいきたいと思っています。

<略歴>
1978年(昭和53年):山梨県立日川高校卒
1985年(昭和60年):群馬大学医学部医学科卒業
   同 年    :山梨医科大学脳外科研修医
1988年(昭和63年):山梨医科大学麻酔科助手
1992年(平成4年) :山梨医科大学手術部講師
1993-1994年(平成5-6年):
   カリフォルニア大学サンフランシスコ校 麻酔科留学
1998年(平成10年) :山梨医科大学手術部助教授(副部長)
2002年(平成14年) :山梨大学医学部手術部助教授(副部長)
2006年(平成18年) :山梨大学医学部麻酔科教授
 現在に至る

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