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看護を実証する研究は、大変だけどおもしろい

浅川 和美

基礎・臨床看護学講座 (2012年3月)

1.実験研究のおもしろさ
 私が、研究の奥深さと楽しさを初めて感じたのは、臨床看護師の経験を経て、看護教育に携わるようになって3年目でした。当時(何年前かは聞かないでください)は、EBN(Evidence based nursing)という言葉もなく、教科書に書かれている看護技術の方法や目的などは、すべて「正しいこと」として教え、覚えさせるのが看護の教育でした。
 身体的・精神的な問題のために入浴できない人への看護援助として行われる「清拭」(欧米では「Bed bathing」)の授業を担当しました。清拭の目的は身体を清潔にすることですが、他にも様々な効果があり、当時はどの教科書や参考書にも、清拭による循環促進効果があると書かれていました。基礎領域の教員グループで、その効果を実証する実験研究に取り組みました。
 サーモグラフィーを使い、清拭前後の皮膚温を比較したところ、清拭後の皮膚の表面温度は低下していました。清拭は温かい温タオルで皮膚表面を拭き、皮膚に水分が供給されるため気化熱を奪われて表面温度が低下するのが原因と考え、素早く乾タオルで水分を拭き取りました。しかし、室温(23~25℃)と皮膚温(30~35℃)の温度差があるため皮膚から輻射熱が奪われて、皮膚温の低下は防げないことがわかりました。
次に、両肩にアルコールを湿らせたガーゼをおいて皮膚温を低下させた後、右側の背部だけに清拭を行って、左右の背部の温度回復を観察しました。その結果清拭を行った右背部の方が温度の回復が早いことが実証できました。やっと、清拭による皮膚の循環促進効果を確認できました。
 看護援助の効果を実証することはとても大変であることを実感した研究でした。一方、看護は対象者の個別性をふまえて行われるために、対象者の主観的満足感は感じても、その効果をデータとして示すことが難しい看護技術の効果を、客観的に実証できるだいご味とその楽しさを感じることができました。私の研究生活の原点となった実験研究でした。
2.疑問をもつことが研究の第1歩
 近年は、看護技術の目的や方法の根拠を明らかにする実験研究が論文として多く発表され、それらの結果が教科書や参考書にも掲載されるようになりました。しかし、看護には、長い間、臨床で行われ、人々の健康を支援するために効果的だろうといわれても、まだその効果が実証されていない看護技術がたくさんあります。一方、つい最近まで看護の教科書に載っていたのに、研究によって何の根拠もないことが実証されて、記述されなくなった看護技術もあります。
 さらに、実験室で看護技術の効果が検証されていても、まだ臨床での効果が検証されていない看護援助はたくさんあります。看護の対象は人間です。看護援助によって、対象者の満足感を実感するだけでなく、客観的な効果を実証することが求められ、そのための評価指標と研究方法の開発が、これからの課題です。
 学生のみなさんは看護を学ぶとき、教科書に書いてある内容に疑問をもち、その効果や根拠が実証されているかどうか確認しましょう。臨床の看護師の方は、日常的に行っている看護援助の効果を実証したいと思ったり、その方法に疑問を感じたら、自分で確かめてみませんか?それが研究の第1歩です。


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