福島医大5年生の時,基礎医学教室に6週間程配属される基礎上級(山梨大学では基礎配属と言いましたが)という実習があり,免疫の仕組みに何となく興味があった私は当時の細菌学教室を選びました。その教室で免疫学分野を研究されていた伊藤正彦先生(山梨大学名誉教授,元微生物学講座教授)に出会うことになりました。伊藤先生がグラスゴー留学時の研究でNature誌に発表した補体レセプターの研究の続きを一緒にさせていただき,ぼんやりながら研究生活とはどんなものかを感じとりました。私は初めから基礎医学に進もうと考えていたわけではなかったのですが,奥が深い研究にも魅力を感じるようになり,当時の細菌学講座教授の茂田士郎先生(抗ウイルス薬研究の権威,その後福島医大学長に就任され,昨年瑞宝中綬章を受章)の門をたたいたところ,「まず大学院に入って4年間,研究してみてはどうか?」と言われました。その大学院時代に幸いにも興味深い実験結果に出会いました。細菌学教室は当時から基礎医学であっても臨床との交流を盛んに行っていたので,内科や小児科の先生などが研究に来ていました。実験の手始めに,内科の先生が行っていたリンパ球のNatural killer(NK)活性の測定を一緒に手伝わせてもらいました。それがきっかけで,NK活性の研究を続けるようになり,その結果,ヒト血清アルブミンがNK活性を増強するというデータに出会い,さらに酸化された低比重リポタンパク質(LDL)がNK活性を抑制することに気付きました。好中球が産生する活性酸素でLDLが酸化されることも示すことができました。このような連続する興味深い発見に出会えたお陰で,大学院修了後も教室に残り研究を続けることになりました。
次にとりかかったのは,NK活性の低下が特徴の一つである原発性免疫不全症Chediak-Higashi症候群の研究で,まだ病因が不明だったので,それを探るために伊藤先生とかなりの月日をかけて実験と分析を重ねました。ようやくこの疾患の病態がprotein kinase Cという細胞内リン酸化酵素の活性が異常に低下することで生じることを見出しました。その後,伊藤先生が当時の山梨医科大学微生物学講座教授に就任されることになり,このテーマの研究を続けたいと考えた私は半年後に山梨に異動しました。私は生まれも育ちも福島ですので不安も多く,家族を連れての引っ越しは人生において大きな決断でした。(山梨に来てから気がついたのですが,甲府近隣と福島市は夏暑く,冬寒く,桃がおいしいなどかなり似ているところが多いのです。)山梨に移って最初の5年間は微生物学講座の助手として研究に没頭した時期です。動物実験,RI実験,PCR,シークエンスなど実験三昧でした。しかし,毎日実験は積み重ねても,なかなか良いデータがでない日々もありました。一方,教育では毎年秋に行っていた医学科の微生物実習も大仕事でした。学生全員の培地や試薬の準備など大変だったのですが,そこで学んだことが現在の看護学科での感染に関する教育や研究に大きく役立っています。私は山梨に来る前の2年間は福島医大附属病院の臨床検査医学に所属したのですが,臨床細菌検査室の流れをじかに見て勉強することができたのも今思えば現在の仕事に役立っているのです。(遠回りすることはあっても何事も無駄になることは決してありません。)
山梨でも多くの方と出会いました。縁があって現在は看護学系の教育と研究を担当しておりますが,Chediak-Higashi症候群の病態や遺伝子診断の研究は継続して行っており,また院内感染の制御に関する看護研究も行っています。基礎研究であっても臨床につながる研究をしたいと常に思っています。特に看護の分野においても科学的に実証していくことは重要であり,実験に興味がある方はぜひ一緒に研究したいと思っています。
人生も研究も出会いの連続だと思います。恩師との出会い,そして驚くような興味深い実験データとの出会い。難病の病因を解明し,新しい治療薬をみつけることは医学研究者として大きな夢です。その夢に向かって,今後またどのような出会いがあるかわかりませんが,一歩ずつ歩んでいきたいと思います。
山梨を訪れた時の茂田士郎先生(右)と筆者(左)